和歌山市の漁港で令和5年4月、岸田文雄前首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、殺人未遂罪などに問われた無職、木村隆二被告(25)の裁判員裁判の第3回公判が6日、和歌山地裁で開かれ、被告人質問が始まった。午前中は主に弁護側が質問。被告は政治家を志したが断念し、選挙制度に不満を募らせるように。世間の関心を集めるため、爆発物を投げることを決めたとの経緯を語った。
午前10時20分から始まった公判。被告は初公判と同じく黒色のコートを羽織り、眼鏡をかけて出廷。逮捕時より髪は短くなった印象だ。
弁護側は経歴から確認する。高校卒業後、栄養士になるために専門学校へ進学。その後、大学の教育学部でも通信課程で学んでいた。
被告「子供に携わる仕事がしたく、中学校の教師になろうと思った」
弁護側は冒頭陳述で、「選挙に立候補したかったが、供託金などが理由で断念した」と現行の選挙制度に不満を抱いた経緯を明かしていた。
弁護人「なぜ先生から政治家志望に」
被告「栄養士になるために勉強中、日本の子供たちは栄養が不足しているという事実を知った。世界中の子供たちも栄養が十分ではない。日本の子供たちに栄養を届けるためにどうすればいいか考えて、政治家が一番いいと」
被告は、4年6月に被選挙権の年齢規定や供託金制度は違憲だと訴える本人訴訟を起こす。同時期にツイッター(現X)のアカウントも開設し、訴訟の内容を発信していた。
弁護人「『いいね』とかの反響は」
被告「ほとんどなかった」
弁護人「正直、訴訟で主張が認められると思っていたのか」
被告「思っていません」
被告の予想通り、1審神戸地裁は同年11月に請求を棄却。被告は控訴するが同時期に火薬の材料を購入する。
弁護人「裁判を起こしていたのがなぜ、爆発物を製造することになったのか」
被告「もとから裁判を起こしても棄却されると考えていたが、実際に棄却された。世間的注目もなかった。世間の関心を集めるために、こういうことをしないとどうしようもないのかなと」
弁護人「騒ぎを起こさないといけないと」
被告「はい」
事件では、前年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に続いて、一般人が銃や爆発物を自作できてしまう現状が問題視された。被告はいかにして爆発物を作ったのか。
弁護人「もともと化学の知識があったのか」
被告「栄養士の勉強をしていたときに理科の実験をしていた」
弁護人「作り方は」
被告「インターネットで調べました」
材料はホームセンターなどでそろえたという。弁護側は、被告が事件前月に自宅近くの山林で爆発の実験をした上で「人を傷つける危険性を認識していなかった」と訴えている。
弁護人「(実験は)どうなった」
被告「煙がものすごく出た」
弁護人「破片は」
被告「パイプがマンションの2階くらいの高さまで飛んだが、破片が飛ぶことはなかった」
弁護人「人がいるところで投げ込んだらどうなると」
被告「煙がたくさん出るから(周りの人は)逃げるだろう」
弁護人「どうして着火から爆発までの時間を1分に。導火線の調整で短くすることもできる」
被告「1分もあれば離れることができるので、長くしていた」
これまでの審理で被告は事件2日前の5年4月13日、大阪・関西万博の会場である人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)近くの駅を利用していたことが明らかになっている。この日、岸田氏は万博の起工式に出席していた。
弁護人「なぜ夢洲に」
被告「岸田さんの近くに爆発物を投げるため」
弁護人「持っていた爆発物は」
被告「2つ」
弁護人「なぜ投げなかった」
被告「(岸田氏が)いる場所があまり分からなかった」
持ち帰った爆発物は一度解体したという被告。同月15日に岸田氏が和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港に訪れることをツイッターで知る。
弁護人「(岸田氏を)もう一度狙おうと考えた」
被告「はい」
弁護人「選挙の応援であると、ホームページに書いていなかったか」
被告「載っていたかもしれないが、私は見ていなかった」
被告は殺人未遂や爆発物取締罰則違反に加え、現場で包丁を所持したとする銃刀法違反罪でも起訴されている。
弁護人「なぜ包丁」
被告「爆発物を修理するため」
弁護人「何を修理」
被告「導火線が通る穴から、(火薬が)こぼれたときに補充する」
弁護人「爆発物を投げ込んだ後、もう1つを取り出した」
被告「1個目の火が消えるかもしれないから」
弁護人「そこで漁師に取り押さえられた」
被告「はい」
弁護人「逮捕は想定していた」
被告「逮捕されると思っていました」
弁護人「世間の注目は爆発物を投げるだけでは得られない。どうするつもりだった」
被告「総理大臣のような有名な人の近くで大きな音が鳴れば、私に注目が集まるだろうと思った。(選挙制度の違憲性を訴える)裁判中だったからそのことで報道されるだろうと」
弁護人「2人がけがをした」
被告「けがをさせるつもりは本来なかったが、結果としてけがをさせてしまって、申し訳なく思っています」
弁護側の質問に終始、淡々と答えた被告。被告人質問は午後も続いた。