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「仕事はかどる」1日18時間勤務の企業戦士、オリンパス前社長を蝕んだ「薬物の罠」 法廷から

産経ニュース 2025年1月28日 12時0分

違法薬物を譲り受けたとして麻薬特例法違反罪に問われた大手精密機器メーカー「オリンパス」の前社長兼最高経営責任者(CEO)を巡り、東京地裁で懲役10月、執行猶予3年の有罪判決が言い渡され、確定した。要職を務め、休日もなく働き続けた「企業戦士」。仕事がはかどるという理由で手を出した薬物は、生きがいだった仕事そのものを奪い去ってしまった。

発端は「タレコミ」

「今は、働いておりません」

昨年12月23日に行われた東京地裁の初公判。裁判官から職業を問われると、紺色のスーツに身を包んだオリンパス前社長兼CEOのシュテファン・カウフマン氏(57)は通訳を介してそう答え、起訴事実を認めた。

社長兼CEOだった令和5年6~11月、違法薬物のコカインと合成麻薬「MDMA」を譲り受けた罪に問われていた。

検察側の冒頭陳述などによると、カウフマン氏は2003(平成15)年、オリンパスの欧州法人に入社。その16年後に役員として来日し、令和5年4月に社長兼CEOに就任した。

異変が現れ始めたのは昨年9月ごろ。検察側の証拠によると、同社や役員の自宅に、密売人を名乗る人物から郵便が届いた。カウフマン氏が薬物を密売人に配達させていたことを示唆するメッセージのやり取りを印刷した「タレコミ」だった。

同社は内部調査を行うと同時に、警視庁へ相談。カウフマン氏は同年10月28日、辞任に追い込まれた。

警視庁は翌11月、薬物を譲り渡した疑いで密売人の金子高明被告(44)=同法違反罪などで公判中=を逮捕し、薬物を譲り受けたとしてカウフマン氏を同法違反容疑で書類送検。その後起訴され、法廷に立たされることになった。

売人に勤務先知られ…

なぜ、薬物を-。被告人質問で明かされたのは、過酷な勤務実態だった。

来日後、「たくさんの仕事をするようになった」というカウフマン氏。令和4年ごろにはさらに仕事量が増えたといい、勤務時間は1日16~18時間に上った。週末も働き、疲労がたまっていたという。

同6月、「疲れを見せたくない」と友人に相談すると、コカインを勧められた。同9月には密売人と直接、やり取りするようになったという。

社長昇任が内定した時期の翌5年2月には、さらに事態は悪化した。密売人に勤務先を知られ、「警察やマスコミ、会社にばらす」と、口止め料を要求された。ドイツにいる家族に危害を加えることもほのめかされたという。

「暴露されるのを恐れていた」というカウフマン氏は、毎月コカイン18袋を60万円で買う約束を密売人と交わし、薬物を使い続けた。「薬物を使えば、今後も働き続けられると思った」。書類送検された後、検察官にこう打ち明けたという。

「母国で更生を」

日本を代表するメーカーのトップに上り詰めたエリートビジネスマンでありながら、違法薬物の誘惑に負け、常用するようになっていたカウフマン氏。初公判では「同僚や投資家の方々の信頼を裏切った」と大柄の背中を丸くし、反省の言葉を絞り出した。

昨年12月27日の公判で、裁判官は「薬物への依存が認められるが、反省している」として執行猶予付きの判決を言い渡し、こう語りかけた。

「母国に帰った後は薬物との関係を断ち切り、周囲の信頼を取り戻せるよう、まっとうな社会生活を送ることを期待しています」

カウフマン氏は小さくうなずき、法廷を後にした。(橘川玲奈)

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