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「時の壁」に風穴 旧優生保護法訴訟 除斥期間巡り最高裁が35年ぶり判例を変更

産経ニュース 2024年7月3日 20時24分

旧優生保護法下で不妊手術を強制されたとして被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁大法廷は3日、原告側の訴えを全面的に認めた。約2万5千人が受けたとされる不妊手術で、声を上げた被害者はごく一握り。最高裁は、自らが35年前に示した法的権利が消滅する「除斥期間」についての判例を変更し、立ちはだかってきた「時の壁」に風穴を開けた。

性同一性障害巡る判決に下地

旧法の規定を違憲と判断した大法廷判決の「下地」は、全く別の事案を巡る昨年10月の最高裁決定にあった。

性同一性障害者の性別変更にあたり、生殖機能をなくす手術を必要とする性同一性障害特例法の規定について最高裁は、憲法13条は「意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障している」との初判断を示し、規定を違憲だとしていた。

今回の判決でも、この判例が引用された。

「不良な遺伝形質を淘汰(とうた)する」ために生殖能力を奪うとする旧優生保護法の規定は「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反するものだ」と指摘。特定の障害を持つ人などを不妊手術の対象とすることは憲法14条1項が禁じた「合理的な根拠に基づかない差別的取り扱い」であり、当時の社会情勢に照らしても旧法の立法目的が正当とはいえず、「立法行為自体が違憲」と断じた。

判例そのものを変更

原告にとって最大の壁だったのは、民法(当時)の除斥期間だ。

除斥期間は、権利関係を速やかに確定させることを目的としたもので、最高裁は平成元年、不法行為から20年が経過すると、損害賠償請求権が自動的に消滅するとの解釈を示していた。

原告勝訴の高裁判決は判例を前提としつつ、救済を試みた。これに対して最高裁は、判例そのものを変更するという、異なる枠組みを取った。

国が政策として多数の人に手術を行い、平成8年に規定が削除された後も補償しない立場をとってきたこと、原告らにとって提訴が極めて困難だったことなどを考慮。国が賠償責任を免れることは「著しく正義・公平の理念に反する」とし、元年の判例をあてはめれば「到底容認できない結果をもたらす」として、被害者を取りこぼさない初の判断を示した。(滝口亜希)

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