強盗殺人罪などで死刑が確定していた袴田巌さん(88)を再審無罪とした26日の静岡地裁判決を巡り、検察内部で捜査機関による3つの捏造を認定した内容に反発が広がっていると聞く。
だが、検察が再審でも争った最大の理由は、捏造の汚名をそそぐためではなかったはずだ。
殺人事件での警察・検察の使命は、真犯人を捕まえ、刑に服させ、遺族の無念を晴らすことだ。
だからこそ、検察は世論の反発を承知の上で、再審でも死刑を求刑したのではなかったか。
検察は袴田さんが血痕のある「5点の衣類」を逮捕前にみそタンクに隠したと訴え、最大の証拠としてきた。判決も衣類が袴田さんを犯人と「推認させる」証拠であることは否定していない。
それでも、1年以上前にみそに隠したと主張する衣類の血痕になぜ赤みが残っていたのか、検察はついに説得力のある説明を尽くすことができなかった。
たしかに判決は警察、検察の全面敗北を示した。
有罪とする根拠を徹底的に否定され、死刑に処すべき犯人だと信じた者を無罪とされたからだ。
判決の事実認定に雑な部分はある。控訴すれば捏造の認定は多少変わるかもしれない。だが、無罪まで覆す自信は検察にあるか。究極の敗北を前に、捏造を巡る争いなどは単なるメンツのための枝葉末節に過ぎない。
残された道は控訴ではない。子供2人を含む4人が命を絶たれた事件で遺族の思いになぜ応えられなかったのか。虚心に見つめ直し、二度と事件を迷宮入りさせないことだ。(荒船清太)