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「なぜ私は話すことにしたのか」声震わせ涙の訴え 元検事正の性的暴行、被害女性会見詳報

産経ニュース 2024年10月26日 6時0分

酒に酔った部下に性的暴行を加えたとする準強制性交罪で元大阪地検検事正、北川健太郎被告(65)が起訴された事件で、被害者の女性検事が25日の初公判後、現職検事として異例の記者会見を開いた。事件から約6年後に被害を申告した理由や、被告から口止めされた状況の詳細などを赤裸々に語った。そして「私自身の経験を話すことで今苦しんでいる被害者に寄り添い、性犯罪を撲滅したい」と訴えた。

大きな権力との闘い

会見は、この日の公判への言及から始まった。被告は「争うことはしません」と起訴内容を認めていた。

「被害を受けてから約6年間、本当にずっと苦しんできました。なぜもっと早く罪を認めてくれなかったのか。もっと早く罪を認めてくれていたら、この経験を過去のものと捉えることができて、また新しい人生を踏み出すことができた。認めたとしても私の処罰感情が安らぐはずもありません」

「大きな権力との闘いで強い恐怖や孤独、『事件が闇に葬られるかもしれない』という不安も大きかった。温かく見守り、私の選択を応援してくださった皆さまのおかげで、今日の公判を迎えることができました。本当にありがとうございます」

涙を流し、声を震わせる女性。続いて記者会見を開いた理由を説明した。

「これまで検事として、たくさんの被害者とともに泣き、ともに闘い、寄り添ってきました。そして今、私自身の経験をお話しすることで、今まさに苦しんでいる被害者に寄り添うことができればと思い、会見を開くことにしました。性犯罪の本質を正しく理解していただき、性犯罪被害者の過酷な実態を正しく知っていただくことで性犯罪を撲滅したい」

「性被害を受け、全てを壊されました。すぐに被害を申告できなかったのは、被告から『公にすれば死ぬ』『検察職員に迷惑がかかる』と口止めをされ、『懸命に仕事をしているたくさんの職員に迷惑をかけられない。検察を守らなければならない』と思ったからです」

同じような被害者を生まないために

「被告は重大な罪を犯したことで本来なら刑事処罰や懲戒免職を受け、法曹資格も失うべきであったところ、その罪を隠して円満に退職した。多額の退職金を得て、弁護士になり、企業のコンプライアンスなどに関わり、検察に大きな影響力を持ち続けた。私を口止めした際、『(この事件が)公にならないなら喜んで死ぬ』とまで言った。しかし、実際の行動はまるで自分の犯した罪などなかったような、被害者の存在など忘れてしまったかのような振る舞いです。苦しみにふたをして検事の仕事に没頭し、何とか生きていこうとした私の気持ちを踏みにじってきました」

「検事正だった人間がこれほどまでに罪深く、不道徳で非常識であることを誰も気付いていない。被害者を救い、犯罪者を適切に処罰し、国民の安全安心を守り抜くことが検察官である私の使命なのに、被害者である私自身は誰からも救ってもらえず、罪を犯した被告を適切に処罰できていない。その怒りや悔しさでPTSDが悪化し、心身は限界となり、休職を余儀なくされました」

「私自身を取り戻すためには私のアイデンティティーを守ることしかない。被告を適切に処罰することしかない。同じような被害者を生み出してはならないと覚悟を決め、被告の処罰を求めました」

「退職しても訴えないか」

女性は被害申告後、特定の検察職員が捜査中に被告側に捜査情報を漏らし、女性を誹謗中傷する「二次被害」があったとして、この職員を名誉毀損罪で刑事告訴するなどしたとも明らかにした。

「速やかに適正な捜査をしていただき、適正な処罰・処分をしていただきたい。私の名誉を回復する機会にしたいと思い、この会見を開くことにしました」

続いて事件当日の経緯も説明した。

平成30年9月12日、被告や女性らは懇親会を開催。泥酔した女性が終了後にタクシーで帰宅しようとしたところ、被告は半ば強引に同乗し、被告が当時居住していた大阪市内の公務員用宿舎「官舎」へ向かった。被告は翌13日未明にかけて官舎で女性を性的暴行。意識が戻った女性が暴行をやめるよう伝えたのに、被告は聞き入れず「これでお前も俺の女だ」と発言し、行為を続けた。

被告はその後、女性に「俺の検事人生もこれで終わった。時効まではちゃんと対応をする。食事をごちそうする」と発言。令和元年に被告が退官する前には「そろそろ退職しようと思っているけど、退職しても訴えないか」と尋ねたこともあった。

女性は事件についての認識を書面で回答するよう求め、被告は退官直前の同年10月に提出した。「大スキャンダルとして組織は強烈な批判を受け、検事総長以下が辞職に追い込まれる」「大阪地検は仕事にならないぐらいの騒ぎに巻き込まれ、組織として立ち行かなくなる」などと口止めされた上、これまでに複数の女性と関係があったことを認めながら、「あなたのような被害者はほかにおらず、失敗したのはあなただけ」と記されていた。

「何とかその後も自分を奮い立たせてきたが、被告が感情を逆なでし続け、被害がなかったかのように振る舞っていたので、怒りや悔しさ、自己嫌悪が高まっていった」

女性は病院を受診し、仕事を続けるのは無理だと診断された。そして今年に入り、被害を申告した。

「あなたを救ってくれる人は必ずいる」

女性は一連の説明後、記者からの質問にも回答した。

――被告にどのような処罰を望むか

「長期の実刑判決を望みます。私はPTSDで一生抱える傷を負っている。それに見合うだけの処罰を望みます」

――会見を行うことで検察庁内で不当な取り扱いを受ける懸念は

「もちろん、それはある。私自身のためもあるが、検察庁が今後、被害者に十分に寄り添い、傷つけないようにすることが大事だと思っている。もちろん一生懸命頑張っている検事、事務官はたくさんいるが、全員ではない。この会見をきっかけにより被害者に寄り添う対応をしていただければありがたい」

――被害を受けている人へ伝えたいことはあるか

「(涙声で)よく生きていてくれたね。ありがとう。あなたは何も悪くない。何も悪くないのに自分を責めてしまう。よくわかる。でも悪くない。私も自分を責めてしまった。あなたは生きていて本当にえらい。私は被害を言い出せず苦しみました。でも、声を上げたら、本当にたくさんの支援をしてもらった。声をあげるのは勇気がいるけれども、あなたを救ってくれる人が必ずいる。もし悩んでいるのであれば、あなたが一番信頼できる方へ声をあげてみてください」

女性の記者会見は、2時間以上に及んだ。性犯罪の被害者であり現職検事でもある女性の訴えに、被告や検察庁がどのように対応するのか注目される。

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