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夫の食事だけ作らない妻、風俗に走る夫 死を招いた壮絶な「家庭内別居」 法廷から

産経ニュース 2024年10月20日 10時0分

アルコールの一種「メタノール」を妻に摂取させて殺害したとして殺人罪に問われている製薬大手「第一三共」元研究員、吉田佳右被告(42)の裁判員裁判が、東京地裁で結審した。初公判で妻の死が殺人か自殺かで真っ向から対立した検察、弁護側だが、公判では「夫婦関係の悪さ」という点には争いがないことが明らかに。被告が赤裸々に語ったのは、同じ研究職ながらキャリアの明暗が分かれた夫婦の、壮絶な「家庭内別居」の内実だった。

「ずっと後悔」

「妻が亡くなってからずっと、もっと早く救急車を呼ばなかったことを後悔しています」

10月8日に行われた被告人質問は、こんな悔恨から始まった。

吉田被告は令和4年1月14~15日ごろ、東京都大田区の自宅で妻=当時(40)=にメタノールを飲ませ、16日に急性中毒で死亡させたとして起訴された。

検察側の指摘によると、妻は同年1月15日朝から、嘔吐(おうと)したり、うめき声を上げたりする「異常行動」を取るようになり、在宅していた被告もその様子を把握していたが、被告が119番通報したのは翌16日朝になってからだった。

被告は法廷で、通報が遅れた理由について「どうせ二日酔いだと思っていた」と説明。当時、新型コロナウイルス禍で救急要請が多発しており「二日酔いぐらいで呼ぶべきではないと思っていた」「素人の判断で決めつけるべきでなかったと、今は思います」とも話した。

被告側は、妻が被告の知らないところで自殺などを図った末に死亡したと主張している。

「寝言で男性の名前を…」

被告人質問によれば、被告と妻が第一三共の内定者として出会ったのは平成18年末。被告は北海道大大学院、妻は京都大大学院の出身で、ともに研究職としての入社した。

当時の印象について被告は「機嫌が良いときは明るくて愛嬌(あいきょう)があり、ムードメーカーだった」と語った。被告によると、妻から告白される形で交際をスタートし、22年に結婚した。

ただ、すぐに夫婦生活の危機が訪れた。

23年、酔って帰宅した妻が寝言で、ある男性の名前を口にした。浮気を疑った被告は、妻の携帯をチェック。職場の男性とのメールのやり取りが見つかった。

被告は「離婚してほしい」と伝えたが、妻は拒否。「男性と連絡を取り合ってほしくない」と、会社を辞めるように迫ると、妻は従ったという。

「うちの会社は結果を出せば、博士号を取らせてくれたり、海外に留学させたりしてくれるが、その将来像が(退社で)途絶えて落ち込んでいた」。当時の様子を、被告はこう振り返った。

たばこを吸うたびに暴力

「研究職にプライドを持っていた」(被告)という妻はその後、転職を繰り返すようになった。28年には世界的製薬大手に就職したものの、半年足らずで退職。仕事の面では思い通りにはいかなかったようだ。

一方、被告のキャリアは順風満帆だった。すでに北大大学院で修士号を取得していたが、24年には千葉大大学院の博士課程へ進んだ。

そんな中で同年11月には一人息子が誕生する。ただ「妻が求めるほど育児に参加できなかった」という被告に対し、妻は不満を募らせていったという。「育児放棄」と言いながら被告を動画に撮影することもあった、と被告は証言する。

一方で、「たばこは吸わない」との約束を破って妻が喫煙しているのを目撃した際、被告が妻に暴力を振るうこともあった。「たばこを吸うたびに手をあげていたので、回数までは覚えていない」という。

育児ストレスから「ささいなことで怒るようになった」という妻との生活の傍ら、被告は性風俗を利用するようになる。理由について、被告は法廷で「(育児や家事で)よかれと思ってやったことで妻に怒られるのがつらく、誰かに甘えたいという気持ちがあった」と説明した。

結局、性風俗利用は妻の知るところとなり、夫婦関係はさらに悪化していった。

カードの使用も車の運転も封じられ…

そんな中、被告は30年に米テネシー州の大学に留学する機会を会社から与えられる。妻は当時の仕事を辞め、息子とともに現地に同行。ただ、夫婦関係は改善するどころか「妻は日本にいるときよりも怒りっぽくなっていた」(被告)。

理由は、「車の運転」と「クレジットカード」だった。

妻は日本の運転免許を持っていたが、ペーパードライバー。事故を起こした場合の対応が不安だったこと、自動車保険料がかかることなどから、被告は米国で運転を許可しなかった。「買い物は週末に一緒に行って買いだめすればいい」と、ドル建てのクレジットカードも持たせていなかったという。

米国は日本以上の車社会であり、買い物はクレジットカードが前提。双方を封じられた妻と被告の関係が、さらに冷え込んでいったことは想像に難くない。

「『育児放棄』『もっと金を出せ』などとののしられた」「私の分の食事は作らなくなったり、洗濯もしなくなった」「息子に私と会話させないようにしていた」。被告は、妻から数々の仕打ちを受けたと主張した。

妻が嘔吐していても風俗嬢とLINE

被告一家は令和2年に帰国。東京都内のマンションに入居したが、この頃には家庭内別居状態だったという。

夫婦の不仲を「息子に見せたくなかった」という被告は、なるべく妻と顔を合わせないよう「2人(妻子)が起きる前に家を出て、2人が寝てから帰宅していた」

そんな生活が続く中、再び性風俗を利用するようになったという被告。検察側は、妻が事件当日、自宅で嘔吐したりする異常行動を取った際も、性風俗店の女性とLINE(ライン)でメッセージを交わしていたと指摘している。

これほど冷え切った関係でも、被告は「自分から離婚することは考えていなかった」という。「両親がそろっていることが息子のためだし、私がいなくなったら妻のイライラのはけ口が息子に向いてしまうと思った」と理由を明かした。

10月11日の公判で、検察側は「被告が妻にメタノールを摂取させたことは明らかで、犯行態様は非常に残酷」として懲役18年を求刑。弁護側は「被告を息子のもとに返してあげてほしい」と無罪を主張し、結審した。

最終意見陳述で「妻に殺意を抱いたことはないし、メタノールを摂取させたこともない。私は無実です」と、改めて潔白を訴えた被告。判決は同30日に言い渡される見通しだ。(滝口亜希)

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