森永さんは1月28日に亡くなられました。令和6年12月の取材をもとに連載します。
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《余命をどう過ごすか。旅行に行く、おいしい料理を食べ歩く…と選択はさまざまだろう。森永さんの選択は仕事に没頭することだった》
書かなければいけないと思う本が、そこそこあるんです。令和6年8月、1カ月で13冊書いたんですよ。ときどき2~3時間意識を失うことはありましたが、ほぼ眠りませんでした。
猛烈な勢いで文章を打ったので、キーボードを3台つぶしました。その後、まだ書き残しているアイデアが12~13冊ほどあるんですけど、それで大体書きたいことは終わります。
で、次にやることですが、私の絵本「絵本でわかる経済のおはなし バブルが村にやってきた!」(講談社)が出ます(7年1月出版)。私はずっと童話作家になりたかったんです。
ただこれをやりながら気づいちゃったんですね。童話は、ものすごく制約が多い。子供向けなので難しい話を書けない。残酷な場面も書けないし、原則はハッピーエンドじゃないといけない。ルールが厳しいんです。
《そこで思いついたのが、教訓的な話を何かに例えて語る「寓話(ぐうわ)作家」だった》
今まで世界のなかで寓話作家で有名な人って、イソップくらいしかいないんです。2500年ほど前の古代ギリシャの人と言われているんですけど。
イソップが書いたとされているお話が、七百数十編あります。私の今の目標は、「打倒イソップ」です。彼の生涯作品数を1~2年で抜いてやろうと思っています。
とりあえず、6年12月に第1巻「余命4か月からの寓話」(興陽館)を出しました。これが好評で、3巻までは出すことになりました。原稿は3巻の分まではできていて、4巻も着手しています。(1巻30話として)ざっくり計算すると、25巻まで出せば、イソップを超えられます。
《「体力的に大丈夫ですか」と聞くと、不思議そうにこちらを見た》
そうですか? でも、できるかなと思って。
スーパー銭湯に行って温泉につかっていると、3つぐらいお話が浮かんでくる。飛行機に乗っていても3つぐらいできる。
実は生前整理の一環なんですが、たまった飛行機のマイレージを使い切ろうと思って、沖縄にしょっちゅう行っています。その機内で書くと生産性が5倍くらいになるんですよ。
明日も沖縄に行くつもりですが、往復の飛行機の中だけで一冊全部書こうと思っていて。
《休むことなく、常に何かを考え、生み出してきた。これは無駄が嫌いな合理主義者だからこそなのだろうか》
うーん、無駄は嫌いですね。それと、仕事の遅い人を見ると、「もっとこうすればいいのに」「なんでこんなに時間がかかるのか」と思ってしまう。
たとえば、400字詰め原稿用紙で10枚ちょっとの原稿を頼まれて、編集者に「締め切りは1カ月後ですよ」って言われると「バカにするな」って思っちゃうんです。5時間後だったら分かりますよ。そんなの、夜に連絡をもらったら翌朝には出しています。あんまり書きあぐねたり、全体の構成で悩んだりした経験はないんですよ。
今まで一番ハイペースでやったのは、1日で200ページです。キーボードを打つのも私は相当速いんですよ。
だけどこの間、たまたまペンで書く必要に迫られたんですが、全然スピードが出せないし、漢字が書けないので愕然(がくぜん)としました。おまけに、ひらがなの「ぬ」が思い出せないんですよ。これはショックでしたね。(聞き手 岡本耕治)