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時代小説「鞍馬天狗」は誕生100年 大佛次郎「ハマ通い」で作品執筆 アートでつなぐヨコハマ<11>

産経ニュース 2024年8月8日 13時9分

大佛(おさらぎ)次郎(1897~1973)の時代小説『鞍馬天狗(てんぐ)』は今年、誕生100年を迎えます。鞍馬天狗は、幕末期に活躍する架空の剣士です。原作小説は47作、映画は名だたる俳優たちが天狗役を演じて63作を数え、昭和を代表するヒーローとして知られています。

大佛は時代小説のほか、現代小説、フランス史を題材としたノンフィクションなど幅広いジャンルの作品を残しました。本名は野尻清彦。明治30年、現在の横浜市中区生まれ。幼くして横浜を離れ、結婚後は鎌倉へ定住しますが、『鞍馬天狗』を書いた大正13年頃から「ハマ通い」を始めました。

その頃の大佛は、原稿を書き終えて50銭(現在の数千円)あれば妻や仲間たちと横浜へ繰り出し、安くておいしい中華料理を食べ、映画館や本屋、洋品店、カメラ屋、レコードショップなどモダンな町を巡ったといいます。大佛は横浜について「生まれた土地というよりエキゾチックな強い匂いで、後になっても私を惹附(ひきつ)けていたのに違いない」と回想し、幕末明治、昭和モダン、戦後とさまざまな横浜を作品に描きました。昭和2年創業のホテルニューグランドでは、港を望む部屋を書斎として『鞍馬天狗』や開化期横浜が舞台の『霧笛』を執筆。10年ほど滞在した318号室は、現在も大佛にちなんで「天狗の間」と呼ばれています。

大佛の没後5年となる昭和53(1978)年、山手町の谷戸(やと)坂上にある「港の見える丘公園」内に当館が開館。黒船来航後、外国人が暮らす居留地となった山手一帯は、領事館や外国人の住宅が並ぶ国際色豊かな地域でした。『鞍馬天狗』や『霧笛』にも登場する場所で、大佛をイメージして設計された建物は、青や白、赤の色調がフランスのトリコロール(三色旗の配色)を示しています。館内では愛猫家・大佛がコレクションした置物の猫たちがお客さまを出迎え、2階サロンでは港を眺めながら一息ついていただけます。当館では、31日から「鞍馬天狗 誕生100年」展を開催します。横浜の歴史を感じながら、ご一緒に誕生100年をお祝いいただけると幸いです。(大佛次郎記念館職員 金城瑠以)

金城瑠以(きんじょう・るい)

平成29年より横浜市芸術文化振興財団の職員として大佛次郎記念館研究室で勤務、展示やイベントなど学芸業務に従事。これまで「大佛次郎と501匹の猫」展▽「誕生!鞍馬天狗」展▽「大和和紀『ヨコハマ物語』×大佛次郎の横濱」展▽「美術の楽しみ ―大佛次郎記念館コレクションより」など多くの展覧会を担当。大佛次郎と同様に大の猫好き、動物好き。

「鞍馬天狗 誕生100年」展の詳細はhttps://osaragijiro-museum.jp/theme-exhibition/12419

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