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草野心平は「富士見通り」忌野清志郎は「多摩蘭坂」、村上春樹も…「中央線沿線物語」出版

産経ニュース 2024年10月5日 20時56分

国立市観光まちづくり協会の副理事長を務める嶋津隆文さん(77)が、文化人らのエピソードで地域の魅力を掘り起こす「中央線沿線物語」を出版した。中央線の文豪といえば三鷹の太宰治、荻窪の与謝野晶子などのイメージが強いが、副題は「国立と立川・国分寺・小金井ゆかりの人物を訪ねて」で、もう少し西寄り。「三鷹までは語り尽くされている」と、足で稼いだネタに自信をみせる。

地域に関心を

「これから団塊世代(昭和22~24年生まれ)がどんどん地元に入っていくようになると、地域の歴史や文化、隣の人にも関心が出てくる。中央線の沿線には、いろいろな著名人がいるので、生の声を集めたら本になると思った」

自身も22年生まれ。直接会った本人だけで、作家の石原慎太郎氏や嵐山光三郎氏、俳優の高橋惠子氏、映画監督の宮崎駿氏…。直接会えない人も、家族、知人らの生の声を集めた。

ページの多くを国立編が占めるのは、自身が観光協会の幹部を務めることもあるが、このエリアの文化的中心地でもあるからだ。

都市開発の際に、現在の一橋大や国立音大(昭和53年に立川市に移転)を誘致したことで単なる郊外の住宅地でなく、ミュージシャンや作家などが引き寄せられる文化と芸術のにおいがする街になった。

富士はステータス

その国立市では今夏、富士山の眺望を遮るとして完成直前のマンションの解体が急遽(きゅうきょ)、決まった。

マンションの名前にも使われるはずだった「富士見通り」については、蛙の詩で知られる草野心平氏の項で紹介されている。

草野氏は、国立に住んだ間に「まっぱだかの富士がガッと見える」という別の詩「天地氤氳(いんうん)」を詠み、詩画集には棟方志功の富士の「板画」も添えられた。

国立駅南口を背にして右斜めに走る富士見通りは、左斜めに伸びる旭通りと開き方が微妙に異なり、富士山に向かっている。

国立の学園都市ができる前から、中央線の西にある武蔵野台地には実業家や銀行家などが別邸を構えて都心よりも大きい富士山を眺めていた。

嶋津さんは「海沿いと違って中央線沿線に住むとき、富士山がよく見えるというのは特別なステータスだったはず」と、地元のこだわりを代弁した。

音楽関係も

立川は、中国・旧満州から引き揚げて幼少期に住んだ指揮者の小澤征爾氏の様子を幼なじみから聞き、40年近く住むピアニストの山下洋輔氏にジャズの街としての魅力を語らせる。

国分寺は作家の村上春樹氏が経営していたジャズ喫茶のそばの喫茶店にぶらり。小金井は、市内にあるアニメ制作会社「スタジオジブリ」にちなみ、宮崎駿氏が見せた作品世界へのこだわりぶりを紹介する。

その他、彫刻家、作詞家、ロック歌手など計28人の新たな一面を紹介。各駅周辺の散歩マップも掲載されている。「近旅(ちかたび)のお供にどうぞ」と嶋津さん。1100円。風鈴社発行。(原田成樹)

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