東京都江東区の東京都現代美術館で開催中の「MOTアニュアル2024 こうふくのしま」(3月30日まで)は、同館が独自の視点で国内の若手作家を紹介するグループ展「MOTアニュアル」の20回目となる展覧会だ。複雑化する現代社会の中で、作家は何を見つめ、いかに表現しているのか。同館の担当学芸員が解説する。
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通信技術や交通手段の飛躍的な発展により、私たちは日々膨大な情報を受け取り、どこへでも移動しやすくなりました。しかしその一方で「自分が今どこに立ち、何とつながっているのか」を実感することがますます難しくなってきたのではないでしょうか。そこで本展では、自分の足元を起点に複雑な現実を見つめ直し、より大きな世界や関係を探ろうとする4人の気鋭の作家を紹介しています。
水にまつわる土地の歴史や伝承を基に、物語を創作する清水裕貴さん(昭和59年、千葉生まれ)は、中国の大連の海岸と東京湾を舞台にした作品を発表。大連と東京で撮影した写真が展示され、大連の古い伝承から着想を得た架空の物語を朗読する声が会場に響き渡ります。
川田知志さん(62年、大阪生まれ)は、イタリア発祥の伝統的なフレスコ技法を用いて、全長50メートルの巨大な壁画を制作。高度経済成長期以降に全国に広がったとされる都市近郊の均質化した風景を再構成して描き、日本社会の基盤となる構造や仕組みをとらえようとします。
ペットボトルなどのプラ製品をガラスで精緻に再現し、フェンスやブルーシートと組み合わせて、どこにでもあるような路上の片隅を描き出す臼井良平さん(58年、静岡生まれ)。その作品は、日常の中で見逃されがちな出来事や状況に目を向けるきっかけを与えてくれるようです。
庄司朝美さん(63年、福島生まれ)は、自分の体内から湧き出るイメージを絵画に表現します。病を患ったことで自分の体のとらえ方が一変したと話す庄司さんの絵には、鳥や動物、亡霊などが伸びやかなタッチで描かれ、作品内外の境界を溶かすように鑑賞者を絵の中に誘います。
ひょっこりひょうたん島のような、他の大陸や島から切り離されて海に浮かぶ陸地ではなく、海底では地続きにつながっているものとして「島」を再考することで、私たちが立っている場所や目に見えないつながりに思いを巡らせてみる。そんな意味が「しま」という展覧会のタイトルに込められています。
現在、世界ではさまざまな分断が広がっているといわれます。それは戦争や気候変動といった国際的な問題だけでなく、経済格差や文化的・人種的な対立にも現れ、解消は容易ではありません。あらゆるものが影響し合い、複雑に絡み合う世界に対し、個々の視点から向き合う作家の表現に触れることで、従来の枠組みを越えた想像力が開かれ、よりよい未来を築くための手がかりが得られるかもしれません。(寄稿=楠本愛・東京都現代美術館学芸員)