秋桜が風に揺れる頃、隣家のご主人が旅立った。
同年代が集まった隣近所の7家族で、子供たちが小さい頃は毎年クリスマス会や餅つきをし飲んで踊って楽しい時間を共有してきた。
まだ菩提寺(ぼだいじ)が決まらないため、葬儀屋の手配した寺の住職が式を執り行った。住職は故人に向かい「お疲れさまでした。いってらっしゃい」と2度声を掛けた。私はこの言葉をこの場面で聞いたのは初めてであった。いろいろなことがあったであろう人生をねぎらい、これから修行の旅に出る故人を励まして見送る言葉に感動した。これ以外の言葉は必要ないかもしれない。
命は借り物。誰でもいずれ返さなくてはならない。火葬場に向かう車を道筋で、皆で見送った。「今までありがとう。さぁ頑張っていってらっしゃい。また会いましょう」と手を振りながら全員が思ったに違いない。
私も、この言葉で送ってもらえたら、きっと「行ってくるね! 今までありがとう!!」と素直に自分の死を受け入れられるような気がした。
その日は、もう少し先であってほしいと思いながら…。
酒井圭子(68) 宮城県多賀城市