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<朝晴れエッセー>冬瓜の思い出

産経ニュース 2024年8月12日 5時0分

夏が来ると思い出す。一抱えもある冬瓜(とうがん)が実家の玄関脇に転がっていたのを。

もう20年も昔のその夜、突然父から電話がかかってきた。

「お母さんが息してない」。風呂からなかなか出てこない母を見に行ったら入り口で倒れていたと。「うちに電話せんと、救急車でしょ!」と叱り、夫と二人実家へと急ぐ。到着するとちょうど救急車に乗せられるところで、その顔は青く声かけしても反応はない。オロオロするばかりの父と一緒に乗り込んだ車は夜の闇の中サイレンを鳴らしてひた走った。まだ身体が温かいからと人工呼吸をしながらの搬送だったが、母は再び目覚めなかった。

持病もなく全く予想外の突然の死。でも死後手続きは待ってはくれず、葬儀社への連絡、安置、通夜、葬式と粛々と滞りなく進む。そしてお骨上げから帰宅し玄関を入ったとき初めて、そこに転がる冬瓜に気づいた。

夫婦二人暮らしに大きすぎだなと考えていると、父が一言、「お母さん、好きだった」。

もったいないしと持ち帰り、毎日冬瓜料理で申し訳なく思っていた私に、夫は「これいただくのもお義母さんの供養やな」と言った。気の張り通しだった日々の終わりを唐突に感じ、少し涙が出た。

椿尾妙子(64) 大阪市天王寺区

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