夫の実家の片付けをして半年。兼業農家だった義父母が残した物は農業用品だった。鍬(くわ)や鎌、草刈機、発動機、噴霧器、農薬などあげればきりがない。使い方を知らない私たち夫婦はそれらを引き継ぐことができない。
さび付いた農具を見ていて義父母が野菜や果樹を栽培していた頃を思い出した。丹精込めて育てたミカンや柿を箱詰めしてわが家に届けてくれた。
「うまいか?甘いか?」と目を細めた義父母。そんな暮らしがずっと続くと思っていた。
しかし、互いの両親が亡くなる度、一つまた一つとお裾分けの農作物が減り、昨年末義父の他界で何もなくなった。最近、夫は「ミカンってお金で買うものやったんや」としみじみ言った。頼れる親がいないことを身をもって知った。
すると物置小屋で農具の片付け中、段ボール箱から市販薬が出てきた。頭痛薬、腰痛の軟膏(なんこう)、胃薬まで入っている。あちこちの痛みを鎮めようと市販薬持ちで畑に出ていたのだろう。
だが、義父母から体の不調を聞いたことがなく、私たちの喜ぶ顔見たさの重労働だったことが分かり言葉を失った。農具の遺品整理で親の思いを知ることができた。
片山ふみ(67) 大阪府河内長野市