西洋発祥の万国博覧会で日本文化は独特の存在感を放ってきた。伝統は形を変えながら受け継がれる。新時代の日本人がどのような形で魅力ある文化の姿をみせてくれるのか、世界が注目している。
♪こんにちは こんにちは 西のくにから
♪こんにちは こんにちは 東のくにから
1970(昭和45)年大阪万博のテーマソングといえば、三波春夫が歌った「世界の国からこんにちは」。2025年大阪・関西万博で注目を集めそうな歌手は、顔を出さないスタイルを貫くAdo(アド)さんだ。
来年4月13日の開幕日の夜にはAdoさんが会場でライブを開く。Adoさんは日本国際博覧会協会を通じて「私の愛する日本の文化や音楽の素晴らしさをパフォーマンスを通してお見せできれば」とコメントした。
映像、音楽で気持ち伝える
万博ではほかにも、NTTパビリオンデーに次世代通信規格「IOWN(アイオン)」を活用し、コンピューターで合成した音声で歌うバーチャルシンガー「初音ミク」が歌舞伎俳優の中村獅童さんと共演する。
Adoさんと初音ミクは、インターネットの音楽動画を聴きながら育った今の若者の文化を象徴するといってもいい。
協会が協賛企業・団体と出展する「未来の都市」パビリオンでアニメ作品を手掛ける稲葉秀樹さんは「(外国人と)言葉が通じなければ映像の美しさが大事。音楽でも気持ちが伝わる構成にしている」と話す。
「新しい日本文化」は音楽や映像にとどまらない。多くの人に愛されるプロレスも、海外から輸入されて日本で独自の発展をした。万博会場では、ユーモアを交えたプロレス興行を展開する大阪プロレス(大阪市)が試合を開催する。
「プロレスは元気が出るエンターテインメント。やられてもやり返す、強い気持ちを万博にやってくる国内外の人にみてほしい」。人気レスラー「ゼウス」として活躍する大林賢将社長はそう意気込みを語る。
コンテンツは貴重な成長分野
日本が初出展した1867年パリ万博以降、日本文化は世界の注目を浴びてきた。1970年大阪万博でも日本庭園や「古河パビリオン」の七重塔、茶道や能といった伝統文化やイメージが発信された。
ただ、70年万博はむしろ「戦後復興を遂げた日本人が世界を知った」という側面が強い。米国館で展示された野球の大リーグやケンタッキーフライドチキンなどの華やかな文化に、日本人は大きな刺激を受けた。
2025年万博のテーマ事業プロデューサーで慶応大教授の宮田裕章さんは、1970年万博について「経済成長の熱狂に飲まれていた」と分析。バブル崩壊とデフレ経済の後に開催される2025年万博では「物質的な豊かさが、心身とも満たされた『ウェルビーイング』という価値に置き換えられつつある」とみている。
新しいコンテンツを通じて、万博が再び「世界が日本を知る」舞台になる可能性がある。日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長は「日本のものづくりの優位性が低下する中、コンテンツ産業は貴重な成長分野」と指摘する。
万博ではもちろん、日本各地の祭りや伝統芸能、郷土料理といった歴史のある日本文化も披露される。新たな「文化大国」として、日本が世界の度肝を抜くことができるのかが、万博後の日本の将来を占うといっても過言ではない。=第4部おわり
連載は山口暢彦、黒川信雄、藤井沙織、正木利和、井上浩平、牛島要平、渡部圭介が担当しました。