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荘厳に浮き出る岩壁の弥勒仏 大野寺 社寺三昧

産経ニュース 2024年8月27日 13時51分

雨をもたらす龍とも縁深い奈良県宇陀市室生地域の山間にある室生寺(真言宗室生寺派大本山)。その「西の大門」とも言われるのが室生の入り口付近に位置する大野寺(同派)だ。

近鉄室生口大野駅から南へと歩くと、間もなく宇陀川のほとりに着き、右手に寺があった。門をくぐると、こぢんまりとして落ち着いた雰囲気だ。寺伝では、飛鳥時代に修験道の開祖として崇められる役行者(えんのぎょうじゃ)が開き、平安時代には一堂を建て、本尊・弥勒菩薩(みろくぼさつ)を安置して慈尊院弥勒寺と称したという。

本堂の近くに礼拝所がある。そこから拝めるのが鎌倉時代に宇陀川の対岸の岩壁に刻まれた有名な「弥勒磨崖仏(まがいぶつ)」だ。高さ11・5メートルという巨大さで、「大野寺石仏」として国史跡に指定されている。

肉眼ではその姿ははっきりとは見えないが、パンフレットにある絵と見比べると目に浮かんできた。螺髪(らほつ)(頭髪)やお顔、何本もの衣文(えもん)(衣のひだ)…。やや右を向く流麗なお姿のようだ。

「一歩前へ踏み出したお姿で、神々しく見えます」。そう話すのは6月に亡くなった先代住職、岡田明知さんの妹で寺務に当たる魚住慈子さんだ。

対岸は仏の住む浄土で、私たちを救済しようとまさに踏み出されたように見えてくる。釈迦が亡くなってから56億7千万年後に修行した弥勒菩薩が弥勒如来となって現れるという信仰を思い起こさせ、荘厳そのもの。一体どれほどの人を立ち止まらせてきたことだろうか。

仏は興福寺僧の雅縁が造立を発願し、東大寺復興の際に来日した中国・宋の石工が彫ったと考えられている。承元3(1209)年には後鳥羽上皇が御幸して落慶供養が行われた。

内部には願文類が納められたとされ、大正時代の調査では小さな巻子らしきものが見つかった。内容が確認されればよかったが、朽ちていて開くことはできなかったという。いずれにしろ宇陀川の流れるこの地が霊域として当時の人を惹きつけたことがうかがえる。

(岩口利一)

大野寺 宇陀市室生大野1680。近鉄室生口大野駅から徒歩約5分。入山料300円。(0745・92・2220)。

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