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<朝晴れエッセー>母と新聞

産経ニュース 2024年7月21日 5時0分

今年の1月、母が新聞をとり始めた。父が亡くなって新聞を止めて7年がたつ。89歳の実兄が新聞を隅から隅まで読むと聞いたことがきっかけとなり、毎朝新聞が届くようになった。

思い返せば、子供の頃からずっと新聞は生活にかかせないものだった。朝、子供たちが新聞受けから持ってきて、父が朝食と昼食の度、新聞を読みながら黙々と食べる。昼休みや夕食後は、祖父と祖母が老眼鏡をかけてゆっくりと読む。学校から帰った私は、番組欄と四コマ漫画を読むのが楽しみだった。母は、いつ読んでいたのだろう。みかん専業農家は毎日、自然の中で忙しく動いていた。

私は四十数年間、小学校で「生きる力となる学力」をめざし、自力解決学習となるノートづくり、辞書引き学習、図書の本や新聞の活用など、人と人が学び合う学習を研究していた。IT教育が進み、鉛筆やノートや本を使わない交流学習が進んでいく現場を懸念しつつ学校を離れた。そして、自然の中で母との有田みかん作りを選んだ。全く畑違いかと初めは思ったが、今では人もみかんも同じ自然界で生きていると実感している。人もみかんも自然の中で、ゆっくりと成長する。

ネットニュースばかりだった私は、母が新聞をめくる紙の音を聞きながら、大切なことは変わらないものだなと、改めて思う。

楠間以苗(65) 大阪府泉南市

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