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<朝晴れエッセー>レンゲツツジ

産経ニュース 2024年7月12日 5時0分

「もう一度、乗鞍が見たい」

息子が大学を卒業し東京を後にするとき、家族で信州を旅した。そのときに見た乗鞍岳の雄大な姿を忘れられない。夫は3月末に71歳で退職した。体力的なこと、特に車の運転を考慮すると私たちに「いつか」はない。今だ。

梅雨入り前。週間天気予報を毎日チェックして、晴れマークが4つ並んだところを見つけた。ここだ。

山歩きが趣味の夫はあっという間に行程表を作成してくれた。途中、7月にならないとバスが畳平まで運行しないことに気づいたが心はもう乗鞍。宿を予約して3日後に出発した。

老夫婦の旅は「アレがない、コレがない」の連発。ホテルの部屋番号は326。「さんにがろくと覚えておけ」と夫。若い頃は旅先でけんかすることもあったが今はもうない。お互いに助け合わないと前に進めないのだから。

山頂には登れなかったけど、残雪の乗鞍岳を遠望しながら、池や滝のある初夏の高原を散策した。辺り一面を朱色に染め上げるレンゲツツジの群生は見事だった。

4泊5日。ネットの口コミと安さで選んだ宿はまれに見るボロだったが、そんなことも一緒に笑える幸せをかみしめた。

蕨野百合子(68) 和歌山県海南市

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