夫は、後期高齢者。昔に比べると、最近は、穏やかだ。
以前だったら、朝、洗濯物を干してから出かけたとする。帰りが思いがけなく遅くなったとき、外は真っ暗なのに、洗濯物は朝干した場所にそのまま。そんな夫に、「少しは気を遣ってくれてもいいのに」とがっかり。「洗濯物を取り込んでくれたらよかったのに」と不満を言うと、「頼まれなかったから」という返事。
ところが最近はそのようなことがなくなった。遅く帰宅しても、きちんと家の中に取り込んでくれている。何が夫を変えたのだろう。夫を変えたものの正体を何としても知りたくなった。
そんなある日、「これだ!!」と思えるものを発見した。それは、夫が愛用している湯呑。私は、「紅茶派」。夫は「緑茶派」。夫は自分専用のお気に入りの急須に、好きな茶葉を入れて楽しんでいる。私はこれまで、夫の湯呑に注意を向けたことはなかった。
その湯呑には、「朝きげんよくしろ」「腹を立てるな」「万事に気を配れ」「家内は笑うて暮らせ」などと、なかなか良いことが書いてある。わが家に静かな平和をもたらしてくれた「湯呑」に感謝の気持ちが湧いてきて、「ちょこん」とそこに置いてある「夫を変えてくれた偉大な」湯呑に「ありがとう」とお礼を言った。
秋里好美(71) 相模原市緑区