毎日、朝一番に朝刊を読みます。連れ合いが、月日や曜日がわからないと何度も聞くようになり始め、新聞が唯一の情報になっていました。
そこで私が1ページ目を読んだら、1面の中央トップの日付が見えるように畳んで目の前に置いてやることにしました。それから私はゆっくりと内側のページを読みます。新聞の日付を何度も見ているのを目の隅にとらえながら、ありがたくうれしい思いでした。
夫婦二人の家から連れ合いがいなくなった日、そっと玄関を入ると自分のまわりの空気が動かないのを感じ、空気の中を歩いているのだと思い知らされました。ああ、自分以外に動くものが何もない。
ケアマネジャーが様子を知らせてくれました。「家に帰りたい」と言って、「階段は何処? エレベーターはどっち?」と聞いてまわるという。いつも言い合ったり、怒らせて、泣かせたこともありました。気が付かない身勝手な相方といた家がいいのかと思うと瞳が潤みます。まだしばらくは面会もできないと告げられました。
今日も配達されてきた新聞は日付を上に向けてテーブルの上に置かれ、帰ることがないかもしれない人を待っています。
大前慶治(79) 兵庫県西宮市