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<朝晴れエッセー>この世のものとは思えんよ

産経ニュース 2024年8月6日 5時0分

私は祖母が大好きだ。そして祖母の料理も大好きだ。釣り好きの祖父が釣った魚をきれいにさばいてよく天ぷらを作ってくれた。食卓に並ぶ旬の魚や野菜が素敵に季節を知らせてくれた。

祖母の料理はいつもおいしいのだが、時々「この世のものとは思えんよ!」と言いながら出してくれる自信作は信じられないほどおいしかった。「この世のものとは思えないほど最高においしい」という意味である。

受験勉強で祖父母に会う回数が減り、そして今就職のため福岡から上京して2年半がたった。東京に行くのを決めたとき、悲しくなるからと徒歩10分の祖父母の家には行かず、まず電話で祖母にそのことを伝えた。すると開口一番「じゃあばあちゃんも東京に行って一緒に暮らすよ」と言ってくれたのである。涙があふれた。ばあちゃんにも暮らしがあるから当然東京には来られないのだが、地元を出たことがない祖母が何を考えるよりすぐに言ってくれた言葉だった。今も振り返るとあたたかく、少し切なく涙が出る。

そんな祖母がこの9月、叔母と一緒に東京に遊びに来てくれることになった。84歳の祖母。おいしいものをごちそうしたいと思ってお店のリサーチをしているが難航している。

この世のものとは思えんばあちゃんのご飯ほどおいしいものはないからな。

坂尾美羽(26) 東京都世田谷区

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