第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は安堂ホセさん(30)の「DTOPIA」(文芸秋季号)と、鈴木結生(ゆうい)さん(23)の「ゲーテはすべてを言った」(小説トリッパー秋季号)に、直木賞は伊与原新(しん)さん(52)の「藍を継ぐ海」(新潮社)にそれぞれ決まった。
芥川賞の安堂さんは平成6年、東京都生まれ。令和4年に「ジャクソンひとり」で文芸賞を受賞しデビュー。同作と2作目の「迷彩色の男」が芥川賞候補となり、デビュー作以来3作連続で候補入り。受賞作は、視聴者によって「編集」される南の島での恋愛リアリティーショーを通して、植民地支配や暴力、ジェンダーやセクシュアリティといった問題を描く。
鈴木さんは平成13年生まれ、福島県出身。福岡市の西南学院大大学院で英文学を研究している。令和6年、「人にはどれほどの本がいるか」で林芙美子文学賞の佳作を受賞しデビュー。受賞作は2作目で、ドイツの文豪、ゲーテの研究で第一人者の主人公が、自分の知らないゲーテの言葉と出会ったのを機に、その原典を探し求める物語。
島田雅彦選考委員は「最も過剰な、勢いのある2人の受賞だ」とした上で、「DTOPIA」について「テーマがてんこ盛りだが、暴力性も含め随所に魅力的なディテールがあった」と評価。「ゲーテはすべてを言った」については「登場人物たちが知の巨人の残した著作の森に迷い込みながら、動きがしっかり立体化している」と述べた。
直木賞の伊与原さんは昭和47年、大阪府生まれ。東京大大学院で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。平成22年に「お台場アイランドベイビー」で横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。直木賞候補は2回目。受賞作は、萩焼の原料となる伝説の土を求める元カメラマンら、地方で継承されてきた人々の営みを科学の視点を通して物語る短編集。
角田光代選考委員は「短編集とは思えない取材を重ね、すべて異なる土地やテーマで、そこに暮らす人の生きる姿を描いた。日常の中に入ってくる科学が、人間にどういう新しい世界を見せるかが非常に丁寧に書かれている」と評価した。
贈呈式は2月下旬、都内で開かれる。賞金は各100万円。