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<朝晴れエッセー>祖父との約束

産経ニュース 2024年9月13日 5時0分

祖父は、私が19歳のとき、「よくしてもらった」と母に感謝して83歳で亡くなった。

私をかわいがってくれ、「お姉ちゃんばっかりかわいがった」と、かつて、今は亡き妹はこぼしていた。

昔人間の祖父は私を跡取り娘として特別扱いしたようだ。「この家を継ぐんだぞ」とよく言われたのを幼心にも覚えている。

23歳で私は祖父の望み通り、結婚して家を継いだ。しかし、私は2人の娘に一言も家の存続は口にせず、彼女たちは自由に恋愛して結婚した。祖父が望んだ「家」は私の代で消える。

15年の間に父、夫、母を見送り、気が付けば独り暮らしとなったが、同じ敷地内には長女一家が住み、5年前からは次女と初孫の3人で住む。

「元禄」に生きた人から連綿と続いてきた命のつながりが、「令和」へとつながっていく。

数年前に五十回忌を終えた祖父は、「お前たちの時代にはこの辺の田畑もなくなるだろう」と言っていたが、そのとおりになった。田畑に替わり、24時間営業の商業施設が並ぶ。

ウイルス襲来や環境の激変を、空の上から目をぱちくりさせて見ているのかもしれない。

細川江美子(75) 和歌山市

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