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そぎ落として、溶け込む花模様 SASUが描く青のシンメトリー 東京・西麻布で個展

産経ニュース 2025年1月22日 11時33分

シンメトリー(左右対称)の花模様を描き出すアーティストのSASU(サス)が東京・西麻布で個展「Self.help」を開いている。2月15日まで。SASUは1990年代後半から国内外で壁画を制作し、いわゆるストリートアートの分野で日本人女性のパイオニア的存在だ。個展はキャンバス地に描いた作品に加え、幼少期の体験を作品化するなど現在の作風を形作った原点を紹介する。

渋谷のトンネル、和歌山の海岸まで

普段はユニット「HITOTZUKI(ヒトツキ)」として、曲線や雲のようなモチーフを描くアーティストで夫のKAMI(カミ)と創作活動する。企業や自治体とのコラボレーションも多い。

昨年は7月に渋谷駅(東京都渋谷区)近くの複合施設「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」横のトンネルで、区のプロジェクトとして壁画を制作した。

6月には和歌山県由良町の白崎海洋公園の台風被害で廃屋になったクラブハウスのペイントを担った。白の石灰岩と紺碧(こんぺき)の海のコントラストで「日本のエーゲ海」と称される観光スポット。2色の異なるブルーを調合し、朝と昼と夜、曇りや晴れなど天候の変化を考慮し、景色に溶け込ませるようにフリーハンドで描いた。

「壁や地域に失礼のないように」

SASUがキャリアをスタートしたのは97年。カナダのスケートボードパークで、スプレー缶を使ってキャラクターを描いた。帰国後、アーティストとして活動していたKAMIと出会い、一緒に米国や欧州などで壁画を制作するようになった。

SASUは主にペンキを使い、パーツを組み合わせることで花のようなモチーフを記号的に表現する。その作品には「安らぎ」や「調和」といった要素が見られ、スプレーでアルファベットを描く一般的なグラフィティアートと一線を画す。

日本の地域性について、SASUは「自分の場所を大切にしている国柄」と述べ、制作にあたっては「壁や地域に対して失礼のないようにと思い、周囲に溶け込み、なじみながらも自分のアイデンティティを内包した形を追求した」という。

「個性のないものから、さらに余分な特徴をそぎ落としたシンプルなシェイプ(形)を組み合わせ、見たことのないものを作りたかった」

ドングリをのせたそり

個展は21年ぶりで、今回は一男一女を育てる母親としての立場やヒトツキを離れ、自分の原点を探し出す作業でもあった。中学時代に自作したポップアートの「ZINE(小冊子)」や紙粘土で作ったドングリをそりに乗せた作品も展示する。

幼少期、ドングリを入れた空き瓶をそりにのせて、寂しそうな家の玄関の前に「元気出してね」と置いて回った。自発的に湧いた幼少期の衝動は「壁を見たとき『描きたい』と思う動機と同じで制作の根源を象徴している」といい、「クスッと笑ってもらえたら」と、一風変わったこの作品を作った。

どん底の先に違う世界

表向き華やかな創作活動も原点をたどると、SASUが20代の頃に死去した母親との別れや、子供の頃に抱いた生きづらさやコンプレックスなどネガティブなものも積み重なっている。

ただ、深く落ち込んでしまったときも、最終的にどこか前向きに開き直ってしまうのも自分だと感じる。

個展に合わせて「過去のトラウマや、作品を見てくれた人の苦しみまでも吸い取ってしまうブラックホールのような装置」とのコンセプトで抽象画を描いた。最初は暗闇に落ちていくイメージを描いていたが、完成に近づくにつれ、見え方がひっくり返った。

描いたのはブラックホールではなく、ブラックホールから私たちの住む地球や銀河系を覗(のぞ)く、開けた構図に変わっていった。

「どん底だと思った先には、実は違う世界が広がっているだけのかもしれない。真剣に取り組みながらも、視点を変えたりユーモアを持つことで、明るさに気づき、最終的に自分を救っている。」

バランスをつかさどり最終的に前向きに動かしてくれる「まいっかマーク」も個展会場に描かれている。

(奥原慎平)

■SASU「Self.help」 会場は「SNOW Contemporary」(東京都港区西麻布2-13-12 早野ビル404)。2月15日まで。日、月、火曜日、祝日は休廊。午後1時~午後7時。入場無料。

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