Infoseek 楽天

松本清張、アガサ・クリスティー…考古学から迫るミステリー小説の世界 謎解きの鍵を展示

産経ニュース 2024年12月19日 10時22分

松本清張、アガサ・クリスティーなど古代遺跡を舞台にしたミステリー作品に考古学の視点から迫る企画展が、奈良県橿原市の県立橿原考古学研究所付属博物館で開かれている。謎解きの鍵として小説に登場する考古遺物などを展示し、同館は「ミステリーファンも考古学の世界を堪能してほしい」としている。来年1月19日まで。

企画展のタイトルは特別陳列「ミステリー小説の中に考古学が登場する件」。国内外のミステリー小説に関係する遺物など約100点を展示している。

松本清張の『万葉翡翠(ひすい)』は、考古学研究室の学生が万葉歌をもとに翡翠の原石を探し求めることから事件に発展するストーリー。会場では、清張の写真とともに遺跡で出土したヒスイの勾玉が並べられ、小説の登場人物が古代の宝石にいかに魅せられたかが実感できる。

テレビドラマで知られる万城目学(まきめまなぶ)の『鹿男あをによし』のコーナーでは、3匹の獣が描かれた古代鏡を探す場面にちなんで、神や獣の像がある黒塚古墳(天理市)出土の三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)を展示。平成20年放送のドラマのロケでは、玉木宏さんや綾瀬はるかさんが同館を訪れており、会場ではその様子を再現したイラストも並ぶ。

担当者の展示解説は今月21日、来年1月11、18日午後2時から。1月12日午後1時からは橿考研講堂で絹畠歩(きぬはたあゆむ)主任研究員らの講演が開催される(無料)。

企画展は博物館の入館料が必要。休館日は毎週月曜(1月13日は除く)と年末年始(12月28日~1月4日)、1月14日。同館(0744・24・1185)。

フィクションとしての推理小説と、遺跡や遺物など物証主義の考古学を結び付けたユニークな企画展を担当したのが、県立橿原考古学研究所付属博物館の若手研究員、伊東菜々子さん(25)。推理小説はほとんど読んだことがなかったというが、企画に当たって数々の名著に触れるうちにミステリーの世界に引き込まれた。

今回の企画が持ち上がったのは5月。「考古学ファンのすそ野を広げたい」と、吉村和昭学芸課長がミステリーに着目。同研究所の絹畠歩主任研究員が、松本清張の作品と考古学の関係について論文を執筆して話題を集めたこともあり、「今回は、発想が柔軟な若手に任せてみよう」と伊東さんに白羽の矢を立てた。

伊東さんは、松本清張の魅力を知るため、ベストセラーの『点と線』から読み始めた。考古学と関係のないストーリーだが、小さな事実を積み重ねて犯人に迫る手法は、歴史を解き明かす考古学に重なると感じた。

飛鳥時代の謎の石造物「酒船石」(奈良県明日香村)が登場する松本清張の『火の路(みち)』などを読み込み、遺跡に足を運びながら展示のイメージを膨らませた。

海外作品では、アガサ・クリスティーの『メソポタミヤの殺人』を「毒」のテーマで展示した。考古学研究室にあった陶器洗浄用の塩酸が殺人に使われたとの一節が気になり、橿考研の保存科学担当の先輩らに塩酸の使用法を確認すると、「陶器や土器の洗浄には使わない」と教えられた。「小説と事実はやはり違うんだ」と新たな気づきもあった。

企画展のパンフレットには、発掘現場を舞台にした伊東さんオリジナルのミステリー作品も掲載した。「入館者が楽しく謎解きをしながら博物館をめぐってもらえれば」との思いだ。

(小畑三秋)

この記事の関連ニュース