ロシアのウクライナ侵攻による文化財被害や保護のあり方をテーマにした国際シンポジウムが19日、奈良市内で開かれた。現地の研究者が来日し、博物館や遺跡などが爆撃され、古代の墓などが塹壕や要塞の構築に伴って破壊されている現状を報告。「戦闘地帯では地雷が埋設され、被害の実態調査に入れない地域もある」とし、文化財保護に向けた国際的関心の高まりと支援を呼びかけた。
シンポジウムは、ウクライナの文化財保護へ支援を続ける文化庁や奈良文化財研究所が主催した。
ウクライナ国立科学アカデミー考古学研究所のビクトール・チャバイ所長が、遺跡などの被害状況を報告。同国の東部を中心に古代ローマ時代や中世の住居跡や墓地、教会などが次々に破壊されていると説明した。
戦争被害を調査している同研究所員らは、文化遺産の軍事化などについても言及。ロシアが高台の遺跡を要塞にした写真を示しながら、「ロシアは防空ラインに陣地を築く際、ドローン攻撃に備えて塹壕も深く掘るようになり、地下の遺跡も壊されている」と指摘した。さらに「戦闘が終了しても、地雷除去には長期間かかるのは間違いない。遺跡の被害調査や保護はさらに先になる」と危機感を訴えた。
戦闘地域での文化財保護についても説明し、ウクライナ軍は保護部隊を結成し、考古遺物が見つかれば安全な場所に移送しているという。保護部隊だけでなく、一般の兵士も要塞建設中に発見した土器などを地元の博物館に届けている事例も紹介した。
ウクライナの文化財保護に協力する北欧・リトアニアからは、ビリニュス大学のゲードレ・M・マトゥゼヴィクテ生物考古学センター長が、ウクライナの博物館収蔵品を疎開のため受け入れている状況を報告。「リトアニアはかつて旧ソ連に占領された歴史があり、脅威を肌で感じる。国としてのアイデンティティーを守るには文化遺産が何より重要で、しっかり支援したい」と話した。