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日常を芸術に昇華、前衛彫刻家の足跡たどる 「さかい利晶の杜」で福岡道雄の回顧展

産経ニュース 2024年7月19日 13時0分

堺市の博物館「さかい利晶の杜」で、昨年亡くなった同市出身の彫刻家、福岡道雄(1936~2023年)の回顧展「福岡道雄 静かな前衛」が開かれている。

堺で生まれ、父の仕事の関係で中国・北京で育った福岡は帰国後、堺市立工業高校(現市立堺高校)を卒業し、大阪市立美術研究所に入所。石膏(せっこう)を海水で固める抽象彫刻作品「SAND」のシリーズで注目され、1960年代は「反芸術」の風潮の中、前衛美術家の赤瀬川原平らとのグループ展などで、全国的にもその名を知られるようになっていった。

しかし、70年代に入ると抽象から具象への転換を図った。繊維強化プラスチック(FRP)を使い、近くの畑で草を刈ったり、池で釣りをしたりした日常の出来事を、彫刻作品化していった。1995(平成7)年の阪神大震災を機に、FRPの平面にルーターを使って「何もすることがない」などの文字を彫ってゆくシリーズを発表する。

2005(同17)年には「つくらない彫刻家」を宣言したが、その後も「つぶ」と題した小品を制作し続けた。

出身地で初めての福岡の展覧会に、運営ディレクターの山本真理奈さんは「福岡さんの二面性を見せたい。つまらない日常をどう芸術に昇華させたかという点と政治性です」と話す。

会場には1957(昭和32)年の「SAND9」から2002(平成14)年の「ブラックバルーン」までの作品12点や資料などが並ぶが、1999(平成11)年の「何もすることがない・7月(KUSAMA)」は、「何もすることがない」という文字の連なりのところどころに美術家、草間彌生(やよい)の作品を見た感想を挟み込んでいる。また、「ブラックバルーン」は米中枢同時テロの翌年の作品。かつて60年代に制作した夢色のピンクバルーンとは異なり、深い絶望感がにじんでいるように感じられる。味わい深い福岡作品をコンパクトにまとめた面白い展示になっている。

9月1日まで(8月20日休館)。大人300円ほか。問い合わせ072-260-4386。(正木利和)

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