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青い浴衣の美人、雪頂く峰…目から「涼」感じる日本画ずらり 東京・目黒の郷さくら美術館

産経ニュース 2024年8月1日 20時52分

現代日本画を専門に展示する「郷(さと)さくら美術館」(東京都目黒区)が、夏にぴったりの涼やかな企画展を開催している。「涼―夏を楽しむ―現代日本画展」では、蓮や朝顔、祭りや浴衣、雪化粧した山の峰など、夏の風物詩や涼しさを感じる画題を中心に40点あまりが展示されている。学芸員の滝口紫苑(しおん)さんは「画材で変わる粒子の感じなどが、ネットで見るのと生で見るのとでは違う」と来場を呼びかける。

迫力ある質感

館内に入ってまず目に飛び込んでくるのは、巨大な渦潮だ。水深の深さを思わせる黒々とした海と、激しく泡立つ白波の躍動感の対比が絶妙で、波同士がぶつかる音が今にも聞こえてきそうだ。作品名は「Uneri(左隻)」。東京芸大大学院出身のアーティスト、野地美樹子氏が徳島県鳴門市を取材地として描いた。「自然と共に」を創作のコンセプトの一つに置き、写実的なだけでなく、目に見えないものの描写を標榜する同氏。近づくと、細かい白波からさらに小さな、キラキラとした青や紫の粒子が弾け飛んでいるように見える。装飾的な技法が、渦潮の迫力ある質感を支えている。

同館1階と3階で開催されているこの企画展。1階にはびょうぶの大作が並ぶ部屋や、緑いっぱいの自然の情景をテーマにした「避暑地のようなイメージ」(滝口さん)の部屋がある。3階は祭りなどを描いたにぎやかな作品を中心に配置されており、部屋ごとでさまざまな夏のシーンを切り取っている印象だ。

館内は20度に

「郷さくら美術館」は現代日本画の専門美術館として、平成18年に福島県郡山市に開館した。24年に目黒区に、29年には米ニューヨークにもギャラリーを開館したが、郡山館は27年に閉館、ニューヨークのギャラリーは現在休館中だ。

目黒区の東京館のコレクションは約1000点で、その内およそ3分の1が桜を画題にした作品だという。同館の外観には館のロゴマークがくり抜かれた約1100枚のタイルが使われているが、これらはすべて岐阜県の美濃焼の陶器。学芸員の西山玲己さんによると、「太陽の角度によっては(ロゴの)桜のマークが館内に映し出されてきれい」な陰影を落とすという。

企画展で並ぶ、夏の風物詩の数々―。視覚的にも涼やかだが、館内の温度は20度に設定され、湿度は50~60%に保たれるなど、酷暑の外とは比べ物にならない過ごしやすさだ。耐久性の低い日本画の保護も兼ねての温度、湿度の設定だという。

金魚の透明感

夏祭りの雰囲気を醸す3階の展示室。独特の色合いで描かれた阿波踊りや、ひれや腹の透明感まで精緻に再現された金魚などが来館者の目を楽しませる。中でも、ひときわ存在感を放つのが青山亘幹氏の美人画、「夏Ⅰ朝」だ。金色の背景に「吉原つなぎ」の柄が施された青の浴衣は鮮やかで、女性のりんとした表情を引き立たせている。作品は、絹の布地の裏から金箔をつけて制作されているといい、滝口さんは「きらきらとしている部分など、実際に見ると迫力を感じてもらえると思う」と話している。入館料は一般800円など。(山本玲)

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