2025(令和7)年4~10月の大阪・関西万博期間中、万博記念公園(大阪府吹田市)に1970年万博のシンボル「太陽の塔」と並んで見える形で「月の塔」を設置するプロジェクトが進んでいる。手がけるのは、2025年万博の8つの核となるテーマ館(シグネチャーパビリオン)の1つ「いのちの遊び場 クラゲ館」のアートを担当する美術家、長坂真護(まご)さん(40)。元ホストという異色の経歴を持ち、西アフリカ・ガーナに不法投棄された電子廃棄物を使った作品を発表して世界で評価されている。
「月」は、平和をもたらすイメージとして長坂さんが描いてきたモチーフだ。移設するのは、香川県・小豆島のホテルにたつ作品「ムーンタワー(月の塔)」。プロジェクトは大阪公立大の橋爪紳也特別教授が共同プロデュースする。記念公園にある、橋爪氏が展示監修した「EXPO'70パビリオン(旧鉄鋼館)」前に建て、角度により太陽の塔と並んで見えるようにする。
頭頂部には月を模した直径2・5メートルの1020面の球体を抱く。球体は廃棄されたペットボトルで作った。高さは全長7・5メートル。太陽光で発電し、蓄電した電力で夜間、LED照明により赤、青などの光を放つ。
「月は太陽から照らされ厳かに輝く。太陽と『陰』と『陽』の関係性だ」。こう考える長坂さんは「太陽の塔は『高エネルギー』のイメージ。1970年当時、社会が発展していくさまを象徴していたと思う」と語る。
一方、今回の万博が開かれる現代は「先人が発展させたこの国のリフレクション(反射)の時代」。発展の影響で生まれた社会課題と格闘しなければならない。「70年当時と現代の関係性を、太陽の塔と並ぶ形で月の塔を建てて表現したい」
長坂さんは福井市出身。東京・新宿のホストクラブで働き、ためたお金を元手にアパレル会社を立ち上げたが倒産した。アーティストの道へ進み、路上で絵を描くようになって渡米もした。
「ターニングポイントは、2015年11月13日に同時多発テロが起きたパリを訪れたときだった」
反戦を訴える作品も描いてきたが、惨状をみて、アートでは世界平和に貢献できないのかとの絶望感に打ちひしがれた。そんな中、人との出会いを通じサステナビリティー(持続可能性)の概念を知る。そして17年、〝電子機器の墓場〟といわれるガーナのスラムを訪れた。
大地にひしめいていたのは、携帯電話やパソコン、テレビなど、大量の電子機器の廃材。先進国が捨てたものだった。住民はそれらを燃やし金属を取り出して売る生活。燃やすとき有毒ガスが生まれ、多くの人が体を壊し亡くなっていた。
「先進国は彼らを犠牲にして富を築いている。世界に伝えよう」。こう決意し、電子ゴミを張り付けた絵画などを作り始めた。世界で評価は高まり2億円で売れた作品も。売り上げの大半は現地につくったリサイクル工場、オーガニック農園などの事業に回している。
今月23日~11月4日には、こうした作品を中心に約150点を展示する「長坂真護展~Still A BLACK STAR~」を、阪急うめだ本店(大阪市北区)で開く。「30年までにガーナ人を1万人雇用し、世界からスラムをなくすことが目標」。こう語る長坂さん。「月の塔」もその足掛かりの一つとする。(山口暢彦)