中学を卒業するまで茶粥で育った。私の田舎、奈良の東吉野では茶粥のことを「おかいさん」といった。
祖母が茶粥をつくる70年以上前のシーンをよく覚えている。かまどに鍋を置き、ちゃん袋(茶袋)に入れた番茶で米を煮、木の杓子(しゃくし)ですくっては落として吹きこぼれを防ぎ、出来上がるまでそばを離れなかった。絶品の茶粥の味は大阪市出身の今は亡き母が受け継いだ。
2020年7月、胃に進行性のがんが見つかり「ステージ4、余命6カ月」の告知を受けた。胃の3分の2を切除する手術と抗がん剤で激やせとなり、ご飯やトーストが喉を通らない。
そんなとき、宇陀市に住む妹が鍋いっぱいの3代目「おかいさん」を持ってきてくれた。がんとの闘いは、朝1杯のニンジンジュースと茶粥の朝食からはじまった。
4年たった今も生かされ、穏やかな余生を過ごすことができているのは、何のおかげなのだろうか。がんに打ち勝つ人の特性に、体力・気力・食事力・娯楽力などがあって、諦めない気持ちを持っているかどうかだという。
私の場合、医療の進歩と妻の献身が大きかったのだろうが、負けない気持ちの部分と食に対する執念、「おかいさん」のおかげも大きいのだろう。
松場弘人(79) 奈良県橿原市