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<朝晴れエッセー>海辺にて

産経ニュース 2024年7月15日 5時0分

朝の散歩で海辺を歩く。釣糸を垂れる男性の後ろにアオサギが一羽いた。

男性が釣糸を手繰り寄せるたびに、アオサギはヒョイッと彼の背後に近づく。座っている肩越しに手元をのぞき、またヒョイッと後ろに下がって彫像のように立つ。

その光景にカメラを向ける若者がいた。竿(さお)の先に集中する釣人。じっと構えるアオサギ。シャッターチャンスを狙う若者。三者は微動だにしない。

緊張を破って男性が釣糸を手繰り寄せた。アオサギが走り幅跳びみたいに彼の背後に飛ぶ。若者がシャッターを切った。

「また空振りだ。腹減ってるのにやってらんないよ。河岸(かし)を変えよ」と言うようにアオサギは一鳴き、羽を広げて舞い上がった。

若者が振り向いて「面白いですね」と笑った。私も笑ってしまう。釣人は泰然と竿の先を見続けている。

その背中に聞いてみたい。「アオサギが後ろに張りついてお魚狙っていたの、ご存じでしたか」と。「ええ、実はヤツをからかっていたんですよ」。そんな返事を期待して一人でにんまり。

海は穏やかで、のどかな時が流れていた。

金子美知子(73) 神奈川県湯河原町

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