「おめさんたち、枕元に靴下置いて寝なせ」と、ある晩、小さかった母と伯母は祖母に言われたそうだ。「おかかは何を言ってるんだろうね」と言いながら置いた靴下には、翌朝みかんとキャラメルが入っていた。もう80年も前、戦争が終わってすぐの冬、新潟の山奥の話だ。
スーパーでカラフルなクリスマスブーツを見るといつも思う。なぜ祖母はあの山奥で、クリスマスを知っていたのだろう。
明治生まれの祖母は8年前に他界したので確かめようもないが、一人っ子で大事に育てられ、女学校まで行った祖母は、学生時代に教会に行ったのかもしれない。そこで靴下にプレゼントを入れてくれるサンタクロースのことを知ったのだろう。いつか自分が親になったら、自分の子供たちのためにやってあげたいと夢見ていたのかも。
ところが先日、伯母が母に電話で「ねえ、あのとき靴下に入っていたのって、キャラメルじゃなくて、スルメじゃなかった?」と言ったらしい。
いやいや、あのハイカラだった祖母が靴下にスルメなんてあり得ない。スルメじゃ夢がないもの。
おかっぱ頭の小さかった母と伯母の枕元にあったのは、甘いキャラメルで間違いないでしょう。
加藤美和(57) さいたま市浦和区