近頃、安眠や快眠、枕など、睡眠に関する話題をよく耳にする。
私は小さな頃とてもお寝坊で、毎朝母をてこずらせていた。小学生だったある晩、父が「枕さんにお願いしよう」と言い出した。
敷いた布団の上で枕に向かって正座をする父と私。父がお願いの仕方の見本を見せる。
まず手をついて枕に一礼。「枕さん、枕さん、どうぞ明日の朝7時30分に起こしてください」
そう言った後、起きたい時刻に合わせて枕をたたく。大きく7回、30分は小さく1回。それから、もう一度手をついて一礼。
私は父がやった通り、丁寧にまねをした。「よし、それでいい。休みなさい」
なんとなく神妙な気持ちになって目を閉じた翌朝。なんと、ぴったり7時30分に目が覚めたのだ! 枕さん、すごい! 私は飛び上がって、台所の母の元へ報告に行き、父は「ほうほう」としたり顔。
心底感激した私はそれから毎晩枕さんに頭を下げた。が、効き目があったのは1回きり。
今でも絶対に寝坊できないときには、このことを思いだす。お願いは携帯の目覚ましアラームにするけれど。
山本亜紀子(52) 静岡県伊東市