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<朝晴れエッセー>運河にて

産経ニュース 2024年11月14日 5時0分

8時20分、玄関から外に出ようとドアのノブをつかんだとき、忘れ物に気がついた。やっと靴を脱ぎ足早に部屋に行き、机の上のイヤホンをポケットに入れ玄関に戻る。

1階に降りイヤホンを耳に装着し、スマホから音楽を流す。今日は免許更新。せっかくなので運転試験場まで運河廻りにすることにした。

運河に入る坂道を登ると、爽やかな風が出迎えてくれ、不規則にゆっくりゆれている釣り船群が見えた。運河沿いの浅瀬には、数羽の鴨たちがこびりついている黒い藻をせわしなくつついて食べていた。

季節の花が楽しめるスポットでは、杖をつき地面に足を踏みかみしめながらの老人、犬と一緒にコスモスと寄り添いながらの婦人、黒い大きなリュックを背負い前を見ずひたすらスマホしながらの青年、など。

ベンチに座り、ふっと息をつく。

数年前だったら既に免許更新手続きを終え、交付までイライラして待ってる自分を想像した。天候、風景、人々にいちいち思いめぐらす自分に閉口するが、世間に対して無関心で仕事ばかりの以前の自分もどうかなって思う。

ふと空を見上げると、2機の飛行機がゆっくり動いている。正面を向く。流れている「サイモン&ガーファンクル」は、昔の自分でも「正解」と言っている。

高橋伸幸(64) 東京都品川区

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