第172回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が15日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、直木賞は伊与原新さん(52)の「藍を継ぐ海」に決まった。
受賞が決まった伊与原さんは、「研究者時代は『昔の地球を見られたらどんなにいいだろう』とよく思っていた」と振り返る。作家の横顔は、東京大大学院で地球惑星科学を専攻した学究肌だ。
小学生の頃に憧れたのは、漫画家の藤子・F・不二雄。特にSF色の強い作品が好きで、当時は「漫画家になりたかった」という。その一方で、科学好きの父親と一緒に見た「コスモス」という宇宙をテーマにしたテレビ番組にも強く影響を受け、「宇宙や天体に関わる勉強がしたい」と思うようになった。
大学で研究対象に選んだのは、岩石などに記録された数十億年前の地球の地磁気。世界各地を巡って岩石を採取したが、古い時代の記録であることを証明する方法を確立できず、「だんだん自分の出したデータが信用できなくなった」。研究に行き詰まりを感じていた35歳の頃、大学帰りに思いついたトリックでミステリー作品を書き、作家への道を歩み始めた。
今も研究者を見て「うらやましいな」と思う気持ちは消えない。だが、小説を通して科学の面白さを伝えるうち、研究者からも熱い応援の声が寄せられるようになった。
「科学の現場では地味な研究がどんどん絶滅しつつある。でも、世界の隅っこをコツコツ掘っている人たちがいるからこそ、世界は豊かなんだということを伝えたい」(村嶋和樹)