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<朝晴れエッセー>ジープとチョコレート

産経ニュース 2024年8月10日 5時0分

「知らない人から何かもらったら、必ず私に見せなさい。毒が入っていることもある」。

明治15年生まれの祖母からいつも言われていた言葉。

9歳の夏、道を歩いている私のかたわらにジープが止まった。帽子を被ったおじさんがバケツを差し出し、「水が欲しい」と言う。ちょうど親戚の家の前だったので、ポンプで井戸水をくみ上げ渡した。おじさんは大変喜び、お礼に「はい、チョコレート。おいしいよ」と言った。

私はすぐ橋の下に行き、誰もいないことを確かめた。見たこともない横文字。触ったこともないツルツルの紙を開けていくと銀紙が現れた。それをはぐると出てきた出てきたチョコレートが。チョコレートを口に入れると少しずつ少しずつ溶けた。甘い甘い味だった。ガツンとくるうま味だった。少し残すつもりだったが全部食べてしまった。

家に帰るとすぐ夕食だった。ご飯はいつもの青菜飯。当然ながら食は進まない。祖母は私の頭やおなかをさすってくれた。しばらくして「何を食べたのか」と詰め寄られ、結局白状してしまった。最後はいつもの祖母の叱責で終わった。

昭和22年、戦後の忘れられない一日であった。

金山輝代(86) 福岡県直方市

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