第172回芥川賞の受賞が決まった鈴木結生さん。デビューからわずか1年、福岡市の23歳の大学院生が、2作目で大きな賞を射止めた。ドイツの文豪、ゲーテをはじめとした海外の古典文学についての膨大な知識をいかして知的に、そして年齢に似合わない精緻な筆力で受賞作「ゲーテはすべてを言った」を編んだ。
福島県郡山市の出身。父親は牧師で神学書など多くの本に囲まれて育った。母親は自分がおなかにいるときから絵本の読み聞かせをしてくれた。
「文学的原体験は聖書。聖書を読むことが本を読むことにつながった。生まれたときから本は身近で、それが自然に書くことにつながった」
本と出会わせてくれた「父と母に感謝」と素直に口にする。中学生のときには受賞作につながるゲーテの「ファウスト」が好きだったという。
小3のとき、東日本大震災を経験。大きな揺れでこたつに潜り、棚からあらゆる本が落ちてきた光景を忘れることができない。その後、2年間は父親とともに被災者支援で避難所などを回った。
小6で福岡市に移住。福島での楽しい記憶を形に残したいと初めての小説「スケッチブック」を書く。大学生の自分が福島にいた頃を思い返す話だ。父親が一人っ子の自分に製本してくれたこの本は、芥川賞の原点だ。
「福島は自分の原風景で故郷。東北への思いをいつかは形にしないといけない」
(斎藤浩)