「仮面の告白」や「金閣寺」などの作品で知られる作家、三島由紀夫が14日で生誕100年を迎えた。これにちなみ、日本近代文学館(東京都目黒区)では企画展「三島由紀夫生誕100年祭」が開かれている。直筆の原稿や初公開の書簡など約200点が並び、三島の交流関係や創作観の一端に触れられる。2月8日まで。
悲観の中にも希望
「三島は日本の文化などに悲観的だったのは確か。しかし、若い才能には感動を覚え、『あとを託した』という風に考えていたとも言える」
展示企画者である白百合女子大教授の井上隆史さん(61)は、昭和40年発行の高橋睦郎氏の詩集「眠りと犯しと落下と」に寄せた三島のあとがきを前にこう語る。
三島は高橋の詩に胸打たれ、「一種の酩酊(めいてい)を感じ、自分の永らく考へてゐた思想の肉化に衝(つ)き当つたといふ感じを持つた」と言葉を寄せた。また、文芸評論家の田中美代子氏のことは「真のリズール(読書人)」と表現して作品の解説を依頼。自作の歌舞伎、「椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)(ちんせつゆみはりづき)」のヒロインには、当時19歳の坂東玉三郎を抜擢(ばってき)した。三島は「文壇の人間関係の中では孤立した存在だった」(井上さん)が、才能あふれる若い芸術家らとは、ひときわ強い期待も込め、関係をつくっていたという。彼らと三島の交流の軌跡をたどれるのも、この展示の魅力の一つだ。
本へのこだわり
展示は「ミシマニア(三島愛)」「ビブリオマニア(書物愛)」「ヤポノマニア(日本愛)」と名付けられた3つの部屋に分かれ、それぞれがテーマを持つ。
ミシマニアには、編集者らと交わした書簡や、署名入りの献本、肖像画などを展示。三島の人間関係をひもとく。
ビブリオマニアは、三島が心血を注いだ「本づくり」に焦点を当てる。ここでは、三島最後の長編である「豊饒(ほうじょう)の海」の象徴的な装丁など、細部にいたるまでこだわった、芸術作品としての書物が感じられる。井上さんは「三島は本としての重みを大切にしていた。こういう観点でまとめる展示はなかなかない」という。
ヤポノマニアには、昭和45年の自決直前に池袋の東武百貨店で開催した自身の展覧会のポスターや、自ら組織した民兵組織「楯の会」の制服などが並ぶ。
歴史と思想重ね
高度経済成長期や冷戦など激動の時代に作家として活動し、市谷の陸上自衛隊駐屯地で自決した三島。井上さんによると、三島は、米国の軍事力に依存する日本で自身が作家として成功していることに矛盾を感じていたという。井上さんは「三島の活躍を歴史的な文脈と重ね合わせて読むというのも、一つのコンセプトだ」と話した。(山本玲)
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2月8日まで(1月23日と日曜、月曜休館)。一般300円など。