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世界遺産候補に「飛鳥・藤原」 中国の脅威に備えた国造りと国難乗り越えるしたたかな外交 

産経ニュース 2024年9月9日 19時36分

飛鳥時代の首都として栄えた1300年あまり前の遺跡「飛鳥・藤原の宮都」(奈良県)が世界文化遺産の国内推薦候補に選ばれた。世界遺産といえば歴史ロマンや観光のイメージが強いが、中国・唐の軍事的脅威に備えた国造りを示す歴史遺産としても重要だ。国難を乗り越えるべくしたたかな外交を展開した飛鳥政治は、周辺国との緊張が絶えない現代にも通じる課題を突きつけている。

当時、唐の台頭によって倭国(日本)を含む東アジアは激動の時代を迎えた。660年、倭国の友好国だった朝鮮半島の百済(くだら)が唐・新羅(しらぎ)によって滅亡。倭は百済再興へ援軍を送ったが白村江(はくそんこう)の戦い(663年)で大敗し、倭国への侵攻も現実味を帯びていた。

飛鳥に都を置いた政権は、大陸の脅威に備えるには強靭(きょうじん)な体制が必要だとし、天皇中心の中央集権国家の建設を急いだ。古墳時代のような複数勢力による連合政権では対応できないとの政治的判断があった。

飛鳥(明日香村)に続いて現在の霞が関のような役所機能を備えた首都「藤原宮」(橿原市)を整備し、法治国家として律令制度を整え、防衛省に当たる兵部(ひょうぶ)省、大蔵省や宮内省など現在につながる国家の基礎を造り上げた。

こうした制度は、脅威であるはずの中国から積極的に導入したことが特筆される。明日香村教育委員会文化財課の小池香津江課長は「対立一辺倒ではなく、見習うべきところを取り入れたのが飛鳥時代。国難にあたっての国造りの過程が、宮殿跡や古墳として残るのが『飛鳥・藤原』の遺跡群」と指摘する。

国境や民族を越え、多様性に満ちた文化が開花したのも飛鳥の特徴だ。飛鳥美人壁画で知られる高松塚古墳(明日香村)や飛鳥寺跡(同村)など華やかな芸術や最先端技術が取り入れられ、世界遺産の条件である「価値観の共有」を示す。

一方で、遺跡保護のうえで最も課題とされたのが、市街地に近接する藤原宮跡。1キロ四方の広範囲にわたり、住宅なども点在する。昨年の国の文化審議会では「登録に必要な保護措置が十分でない」と指摘され、推薦が見送られた経緯がある。橿原市は地権者との交渉を進めて史跡範囲を拡大し、全体の約98%まで進んだが、今回の審議会でも「保護措置をより完全なものにすること」とされた。

世界遺産は文化や自然を含めた総数が千件を超えて以降、登録へのハードルが高くなり、世界を納得させるべくさらなる取り組みが求められる。(小畑三秋)

歴史的価値と魅力を世界に

世界遺産「飛鳥・藤原」登録推進協議会専門委員会委員長の木下正史・東京学芸大名誉教授(考古学)の話

「古代東アジア諸国との交流を通じて中央集権国家がどのように形成されたかを具体的に示す歴史遺産であり、国内推薦候補となったことは大変喜ばしい。中国に習いながらも古墳時代の伝統を引き継いで日本独自の国家を築いた点も特筆される。遺跡は地下に埋もれており、歴史的価値と魅力を世界に理解してもらえるようさらなる工夫が必要だ」

「飛鳥・藤原の宮都」 推古天皇即位(592年)から平城京遷都(710年)までの約120年間の飛鳥時代に築かれた宮殿跡や古墳、寺院跡、香具山などの大和三山の22件で構成。奈良県橿原市、明日香村、桜井市に所在する。天皇中心の律令国家が成立した政治の中枢の藤原宮跡(橿原市)、飛鳥美人壁画で知られる高松塚古墳(明日香村)、石舞台古墳(同村)、山田寺跡(桜井市)などが含まれる。

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