寝起きに水を飲まないで! 睡眠中に増殖した口内の悪玉菌(歯周病などの原因菌)が生きて腸に届く危険が…。その前のうがい殺菌を勧める「口腸相関」啓発が活発化している。腸活ブームで、腸内細菌がメンタルや全身に作用する「腸脳相関」が知られるようになったが、腸につながっているのがまさに「口」だ。唾液に含まれた悪玉菌が腸内細菌叢(そう)を乱して炎症からがん化、また血液を介して全身に送られることで糖尿病や認知症、心血管疾患などへ影響すると多くの研究で報告されており、全身の健康を意識した口腔(こうくう)ケアが活況だ。
衝撃!歯周病菌の〝見える化〟
「私どもが開発した、スマホで見る顕微鏡『見る菌』で、私の口内の菌をご覧ください」
細菌の〝見える化〟で社会課題に取り組む「mil-kin」(ミルキン、東京都江東区)の狩野清史社長が、壇上で自らの歯垢(しこう)を採取して装置にセットすると、多様な形にうごめく菌がモニターに映しだされた。
「衝撃的。悪玉菌が、みんなにも私にもいるって話ですね、あー怖い!」。タレントの藤本美貴さんが悲鳴を上げる。そこに洗口液(マウスウォッシュ)を1滴垂らすと、菌が消えた。
「リステリン」を展開するケンビューが7日に発足した「お口から健康委員会」発足式の一コマ。藤本さんはアンバサダーに任命された。口内細菌は1千種類以上、歯垢1ミリグラムあたり数億から数十億個以上存在。就寝中に最も増えるため、起床直後と就寝前の1日2回、各30秒、洗口液使用の習慣化を促している。
同社が8月に30~40代女性1千人に実施した調査では、朝の歯磨き・うがい前に水を飲む人が53%もいる一方、口内悪玉菌が全身に影響を及ぼす可能性を52%が知らないと答えた。
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1879年の英国で外科手術用消毒液として開発されたリステリンは、昭和60(1985)年に日本発売。国内で年間2300万本が売れているトップブランドの洗口液で、参考価格は1リットルボトルが約1千円だ。
「世界で最も研究されている洗口液でもあり査読論文は500件以上。口腸相関による全身疾患への影響、予防の有効性や安全性が報告されている半面、善玉菌も殺菌するので不安との声もいただく」と研究開発本部の水野紗耶香マネジャー。この点について、「口腔細菌叢は善玉菌の増加後に悪玉菌が増殖する。定期的に全体の菌レベルを下げることで善玉菌優位の環境を保てる」と説明した。
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日本人の3人に1人はかかるというがん。徳島大大学院の湯本浩通教授は9月公開のKAOヘルスケアレポート74号で「歯周病が全身に及ぼす影響」として次のように述べている。「歯周病の原因菌が舌や歯肉、頬(ほお)や喉の粘膜などの頭頸(とうけい)部がんにつながることは知られていたが、最近では、膵臓(すいぞう)がんや大腸がんにも影響を及ぼすといわれています。唾液に含まれる細菌が生きたまま腸に到達し、増殖して腸内細菌叢を乱して炎症を起こし、がん化することが考えられます」
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全身の健康を意識した各社の口腔ケア商品も進化している。花王「薬用ピュオーラ ハミガキ」は10月に改良。いつもの歯磨きで、こびりついた歯垢・菌を分散、根元からはがして除去する処方変更で、汚れ落とし性能を高めた。
ライオンの「システマハグキプラス」は直近5年間で売り上げが約1・7倍に成長。先制殺菌をうたうサンスターの「G・U・Mプラス デンタルペースト」は、一昨年9月の発売から半年で500万本を売り上げるヒットとなっている。
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大人だけの問題ではない。ライオンが一昨年の歯科基礎医学会学術大会で発表した実態調査によると、乳幼児の両親が保有する口腔細菌の多くが生後半年ごろから検出されるようになり、その後、1歳半にかけて多様な菌種を保有する乳幼児が増加。菌種の中には口臭や歯周病に関連する菌も含まれていたそうだ。
今時の親は口移しなどしていないはずだが…。一緒に暮らしているだけで他者に届く菌の力、恐るべし。(重松明子)