高齢になるほど食が細くなりがちだ。体が必要とするエネルギーやタンパク質などの栄養素が不足する「低栄養」状態が続くと、体重が落ちて筋力や免疫力も低下し、けがや病気になりやすくなる。寝たきりや要介護状態につながる虚弱(フレイル)の要因にもなる。物価高で食料品が値上がりするなか、カロリーを含めた栄養確保に一層留意したい。
「ダイエットは難しいと思っていたが、減ってしまった体重を増やすのはもっと難しい」
東京都豊島区で1人暮らしをする75歳の女性は約1年前、腰椎の圧迫骨折をきっかけに、5キロほど体重が落ちてしまった。病院からタンパク質を十分に摂取するよう指導され、肉類を食べるように心がけている。
しかし、食料品の値上がりで思うような食生活になっていない。「スーパーに行っても、ネギが特売だったらネギを買う。安いものを重点的に、高い食材は量を減らして買っているので、ボリュームやカロリーは足りていないかもしれない」と話す。
厚生労働省が定めた令和7年版の「日本人の食事摂取基準」によると、1日に必要なエネルギー量は、身体活動レベルが普通の場合、75歳以上の男性で2250キロカロリー、女性で1750キロカロリーとなっている。
総死亡率を低く抑える観点から、体重を身長(メートル)の2乗で割って算出する体格指数(BMI)の目標範囲も参考値として提示。65歳以上の目標範囲は21.5~24.9だが、冒頭の女性(身長153センチ、体重47キロ)のBMIは20だった。
食べる量が減って低栄養になると、体重が減って筋肉量も減少し、身体機能が低下する。エネルギー消費量が減ることで、食欲が低下し、低栄養がさらに悪化する-という悪循環に陥りがちだ。
首都圏で在宅医療を行う医療法人社団「悠翔会」(東京都港区)の佐々木淳理事長によると、高齢者は標準体重(BMI22)を下回ると死亡や要介護のリスクが上がるという。「できるだけ標準体重を下回らないよう、カロリーを摂取することを一番に考えてほしい」と強調する。
中年までは生活習慣病予防として野菜を食べ、脂質や糖質を摂取し過ぎない食生活が望まれるが、高齢になると第一にカロリー、次に筋肉維持のためのタンパク質を重視する食生活に「大きくギアチェンジする必要がある」(佐々木氏)という。
高齢者は、入院時の治療や検査による食事停止で大幅に体重が減少することも多く、退院後に10キロも減ってしまうケースもある。体重が6カ月間に2~3キロ減少した場合は低栄養のリスクの目安となる。医師や管理栄養士に相談しながら、少しずつ体重を回復する必要がある。
また、低栄養によって免疫力が落ち、食べるために必要な筋肉が衰えることで、高齢者の死亡原因に多い「誤嚥(ごえん)性肺炎」につながるリスクもある。佐々木氏は「食べたりのみ込んだりする力だけでなく、せきをする力も衰えてしまうことで、細菌を含んだ唾液が気管に入り、肺炎を発症してしまう」と説明する。(本江希望)
油分「ちょい足し」がおすすめ
福島学院大学短期大学部食物栄養学科 田村佳奈美准教授の話
高齢者にとってタンパク質は重要です。1食に手のひら1杯分ぐらいのタンパク質性食品を食べることが目安になります。
例えば朝、食パンだったら、コップ1杯の牛乳とチーズも食べる。お昼がうどんだったら、そこに卵を入れ、豆腐も食べる。夜はメインにお肉か魚料理、さらに納豆を食べる。そうすると、3食合わせて大体50グラムのタンパク質を摂取することができます。卵は良質のタンパク質が取れ、単価も安いので、積極的に食べてほしい食材です。
食が細い高齢者がカロリーを摂取するときに、おすすめなのが油分の「ちょい足し」です。ごま油やオリーブオイル、米油など、油をみそ汁や野菜のおひたし、冷ややっこにかける。油を加えることで、のみ込みやすくなる効果もあります。マヨネーズもいいですね。ほかにも、つくり置きの料理にカレー粉を加え、味を変化させて食欲が出るようにするなど、工夫してカロリーとタンパク質をしっかり摂取しましょう。