子宮頸(けい)がんの原因で知られるヒトパピローマウイルス(HPV)は、男性でも肛門がんや、のどの中咽頭がんを引き起こすことがある。日本ではウイルス感染を防ぐHPVワクチンの定期接種は女性だけが対象。ところが最近、一部の自治体が男性にも接種費用の助成を始めた。11月19日は男性の心身の健康に目を向ける「国際男性デー」。健康を守るためにできることを考えてみよう。
「HPVは性別に関係なく8割近くの人が感染するといわれる身近なウイルス。男性がワクチン接種する目的は、何より自分自身の健康を守ることにあります」。そう話すのは、産婦人科医で「HPVについての情報を広く発信する会」の代表理事、稲葉可奈子さんだ。
自分自身と将来のパートナーを守る
稲葉さんによると、HPVは男女を問わず、肛門がんや中咽頭がん、性感染症の尖圭(せんけい)コンジローマなどの原因ともなる。特に中咽頭がんは、女性より男性に多い。
HPVは性交渉で男女が互いにうつし合って広がる。そのため海外では欧米を中心に40カ国以上で、女性だけでなく男性にも公費接種が行われているという。
「男性への公費接種が定着しているオーストラリアや英国では、集団免疫の効果が表れ、全体的なHPV感染率が下がってきている」と稲葉さん。男女ともに免疫を持つことは「自分自身と将来のパートナーを守ることにもつながる」と話す。
日本ではHPVワクチンの公費による定期接種は小学6年~高校1年の女性だけが対象だ。男性にも任意で接種できるワクチンがあるが、3回の接種費用は5万~6万円にのぼる。
東京都が自治体への補助金で接種後押し
経済的な負担が高いハードルとなる中、青森県平川市が令和4年度から小学6年~25歳相当の男性へのHPVワクチン接種の費用助成に踏み切るなど、独自の取り組みを始める自治体も出てきた。
今年度は東京都が動いた。男性へのHPVワクチン接種の費用助成をする自治体に対し、かかった事業費の半分を都が補助する。
都内23区では11月現在、千代田区や新宿区など20区で、小学6年~高校1年の男性を対象に3回分の接種費用を助成。千代田区によると、当初の想定を上回る申し込みがあり、区民の関心は高いという。
都の担当者は「国で男性のHPVワクチンの定期接種について審議が続いているが、定期接種が実現するまでの間、都内の自治体には都の補助を活用し、都民の負担軽減につなげてもらえたら」と話す。
少しずつだが、性別を問わずHPVワクチン接種の費用負担を軽減する動きが広がっている。稲葉さんは「今後も公的な制度の拡充を求めていきたい」と話している。(篠原那美)
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産経新聞社と日本メンズヘルス医学会、日本抗加齢医学会、日本抗加齢協会は11月10日、男性特有の健康課題や働き方をテーマにしたトークイベント「ぼくたちはどう生きるか? -仕事と趣味と健康と、家庭と職場と人生に、役立つライフハックFES-」を東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催します。参加無料。イベント詳細はこちらから。