痛みやかゆみを伴う湿疹や水ぶくれが皮膚に現れる「帯状疱疹」。高齢者の発症割合が高く、65歳になった高齢者らを対象にしたワクチンの定期接種が4月から始まる。帯状疱疹は80歳までに3人に1人が発症するといわれ、後遺症が出る恐れもある。接種費用の一部を公費補助する定期接種の導入で、シニア世代の発症者の減少が期待される。
かゆみと痛み
徳島県に住む63歳の女性は一昨年9月、左脇腹に違和感を覚えた。最初はちくちくする痛みを感じただけだったが、日を追うごとに強まっていった。
数日後、赤い発疹が出てきて範囲が広がり、水ぶくれに変わっていった。「発熱もあり、かゆみと痛みとでつらかった」。皮膚科を受診すると、帯状疱疹と診断された。
塗り薬や飲み薬の処方を受け、症状が収まるまで約2週間を要した。皮膚症状が収まった後も数週間ほどは痛みが残り、水ぶくれの痕が消えるまで半年ほどかかった。
帯状疱疹は、日常生活に支障が出るほどの痛みが生じたり、後遺症が出たりすることもある。原因となるのは、幼少期に発症することも多い水ぼうそう(水痘)を引き起こすのと同じウイルスだ。水ぼうそうが治った後も神経に潜伏し、免疫の働きが落ちることで再び活性化し、帯状疱疹が起こるという。
女性は「子供のころに水ぼうそうにかかった。発症当時は免疫が低下していたのかもしれない」と振り返る。ワクチン接種はしていなかった。
自治体で助成も
帯状疱疹ワクチンには「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類がある。現在は原則50歳以上、発症リスクが高い人は18歳以上で任意接種できる。多くの自治体が接種費用を助成しており、自己負担は自治体によって異なるが、1回接種の生ワクチンで数千円、2回接種が必要な不活化ワクチンは2回で数万円のケースが多い。効果や持続性は不活化でより高い値が報告されている。
厚生労働省は昨年12月の専門家部会で、65歳以上になった高齢者などへの定期接種化の方針を了承した。65歳と60~64歳のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)による免疫機能障害者が対象で、65歳を超えている人については5年間の経過措置として、70歳▽75歳▽80歳▽85歳▽90歳▽95歳▽100歳-で接種機会が設けられる。100歳以上の人は令和7年度に限り全員が対象となる。定期接種は費用の一部が公費で助成される。
帯状疱疹の発症率は上昇傾向にある。横浜市鶴見区の「まりこの皮フ科」では、平成26年に6人だった月の平均患者数が、令和6年には3倍の20人ほどまで増加した。
日本皮膚科学会専門医の本田まりこ院長は「(平成26年に)乳幼児の水痘ワクチンが定期接種となったことも影響している」と話す。水痘の子供が減少し、大人が子供のウイルスに接触することで免疫が活性化される「ブースター効果」を受ける機会が減ったため、帯状疱疹の発症につながったとみられる。
本田院長は「ワクチンは帯状疱疹を完全に防ぐものではないが、打てば軽症で済むことが多い。高齢者には特に接種をすすめたい」と呼びかけている。
70代がピーク
帯状疱疹の発症割合は50代から急激に増える。加齢は大きなリスク要因だ。
皮膚科医の外山望氏らが報告した調査結果によると、宮崎県の皮膚科46施設の受診者のうち、帯状疱疹と診断された1000人あたりの罹患率は10~40代が2.25~2.83人だったが、50代は5.05人と急増。さらに60代は7.12人で、ピークの70代は8.69人に達する。この調査からは、男性より女性のほうが感染しやすい傾向も報告されている。
国立感染症研究所の資料によると、帯状疱疹と同じウイルスによる水ぼうそうは冬に増加し、夏に減少するが、帯状疱疹は逆に、冬に減少し、夏に増加する傾向が認められるという。(塚脇亮太)