済生会和歌山病院では三叉(さんさ)神経痛の専門外来を行っていますが、令和2年から約400人の患者さんが受診されました。その結果をもとに、「顔に痛みや異常感覚を感じる」疾患を紹介します。
顔面に痛みを感じる代表的な疾患は三叉神経痛です。これは片側の顔面の特定の部位に、瞬間的に耐えがたい激痛が起こり何度も繰り返す、というものです。激痛は顔の一部、多くは口の周辺に触れたときに引き起こされるので、食事、会話、洗面、化粧などで痛みが起こります。したがって痛みのため患者さんの生活はかなり制限されてしまいます。多くの場合まず歯科を受診し、歯には異常がないということで紹介されてきます。
この病気には有効な治療薬があるので、まず内服治療を行います。またこの病気は三叉神経という脳神経に血管が圧迫していることが原因なので、手術で原因を解消する根本治療があります。
三叉神経痛よりも頻度が高いのが非定型顔面痛です。顔面の一部に痛みを感じる点では三叉神経痛と同様ですが、脳や神経に明らかな原因がありません。痛みは激痛の場合もありますが、鈍痛やピリピリする感じなどさまざまであり、また多くの場合瞬間的な痛みではなく、持続的な痛みです。
この病気で多いのは何らかの歯科治療後に発生する点です。例えば歯が悪くて抜歯をしたのに痛みが治らないなどの例が多く、これもまた歯科から紹介されます。中年の女性に多く、また何らかのストレスがきっかけになった場合もあります。病気の原因は不明ですが、診断がつけば治療がなくとも改善する例も多いです。
意外ですが、片頭痛疾患も顔面に異常感覚を起こす原因となります。片頭痛は若い女性に多い頭痛を起こす病気ですが、頭ではなく、顔面にも激痛を起こすことがあります。目の奥、耳の奥、歯の奥などに激痛が生じ、涙、目の充血、鼻汁など伴うこともあります。瞬間的激痛ではありませんが発作的に起こり30分から2時間ほどで治まります。頭痛の治療薬が有効です。
最後に非常にまれな例を紹介します。20代の女性が片方の顔にしびれを感じて受診されました。ほかに何も症状はありません。片頭痛疾患も考えましたが痛みではなくしびれ感のみであり、念のためにMRIを施行したところ脳に多発性硬化症というまれな病気が見つかり、幸いにも投薬治療で改善しました。
このように痛みやしびれなど顔の異常感覚を起こす疾患は多岐にわたりますので、さまざまな視点からの診療が求められます。
(済生会和歌山病院副院長兼脳神経外科部長 小倉光博)