今回の「がん電話相談」は、子宮頸部(けいぶ)の前がん病変とされる高度異形成の手術をしたにもかかわらず、検査でまた異形成が見つかり、治療に悩む50代女性の相談に、がん研有明病院の元婦人科部長、瀧澤憲医師が答えます。
--令和2年11月、前がん病変の子宮頸部高度異形成(頸部の扁平(へんぺい)上皮の細胞に異形がある状態)と診断され、子宮頸部円錐(えんすい)切除術を受けました。切除した組織を調べた結果、(異形成を切除しきれていない可能性のある)断端陽性で、細胞診で高度異形成を示唆する異常が続いたため、翌年5月に子宮全摘術を受けました。
「その後はどうですか」
--約1年半は異常がなかったのですが、4年10月、膣(ちつ)壁の細胞診で中等度以上の異形成が見つかり、その後の経過観察でも異形成が消えていません。子宮摘出後の膣断端には異形成が認められなかったので治ったと思っていました。その後、またどうして異形成になったのですか?
「子宮摘出後の膣断端に異形成は認められず、手術後、約1年半は細胞診の異常も見つからなかったということですね」
--そうです。
「初回の高度異形成は治ったものの、その後、残った膣壁の粘膜のどこかに新たな異形成が起こり、そこから異常な細胞が出現したのではないでしょうか。膣壁の異形成という新規の病名になると思います」
--子宮摘出後にそのようなことが起こるのですか?
「子宮頸部や膣壁の異形成はヒト乳頭腫(パピローマ)ウイルス(HPV)の持続感染により起こります。HPVが粘膜の微小な傷から侵入し、持続感染巣をつくることで異形成が生じ、ひいては上皮内がんや浸潤がんを生じることがあります。持続感染巣が形成されやすいのが子宮頸部です。頻度は低いのですが、膣粘膜でも持続感染巣は発現します。膣がんの発生頻度は、頸がんと比べ50~100分の1程度です」
--担当医によると、膣壁を膣拡大鏡で検査しても病巣を目視で確認できず、組織検査ができないとのことです。
「膣腔は想像以上に広いので、膣拡大鏡で精査しても異形成を同定できないことは少なくありません。相談者は閉経後7年経過しているので、女性ホルモン欠乏により萎縮(いしゅく)性膣炎が起きているかもしれません。細胞診でより正確に検査するため、検査日の10日前から女性ホルモン(ジュリナ錠)を内服して萎縮性膣炎を正常化させ、ルゴール液(濃縮ヨード)を塗布し、膣粘膜のただれている面と増殖面を判別しやすくすることなどが必要です」
--膣壁の病巣が分からなければ、治療はできないのでしょうか?
「細胞診異常がさらに悪化し、がんを示す所見が認められるようになれば、病巣が認識できます。病巣が同定でき、それが限局性であれば、その部位を炭酸ガスレーザーで蒸散治療するか、膣壁の部分切除を行います。もし病巣が広範囲で上皮内がん以上であれば、膣腔内に器具を入れて放射線照射でも治せます」
「なお子宮全摘前にHPVの遺伝子型を調べていて、がんを引き起こすハイリスク型HPVのうち特に16型のHPVが検出されていたら自然治癒の可能性は低いので3~6カ月ごとの検診を続けてください」
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「がん電話相談」(がん研究会、アフラック、産経新聞社の協力)は毎週月~木曜日(祝日・振替休日を除く)午前11時~午後3時に実施しています。電話は03・5531・0110、03・5531・0133。相談はカウンセラーが無料で受け付けます。相談内容を医師が検討し、産経紙面やデジタル版に匿名で掲載されることがあります。個人情報は厳守します。