出産や加齢が原因で「骨盤底筋」が弱くなり、子宮やぼうこうなどの臓器が下垂して、膣(ちつ)から外に出てくる「骨盤臓器脱」は女性特有の疾患だ。不快感が続き、生活の質の低下につながるが、恥ずかしさから誰にも打ち明けずに我慢してしまう女性は多い。こうした悩みに対応しようと、看護師による相談会を開く「女性泌尿器科」が東京都内にある。長年、症状に悩んできた40代の記者が、当事者として相談会に参加した。
きっかけは縄跳び
記者の悩みはデリケートゾーンの違和感だ。数年前、子供と縄跳びをした後、陰部に何かが下がっている感覚を覚えた。触ると膣の内側にあるはずの部分が膣口から外に出ているように思えた。やがて痛みを感じるようにもなった。
インターネットで調べたところ「骨盤臓器脱」の症状のようだ。さらに検索し、東京都千代田区にある医療機関「四谷メディカルキューブ」の女性泌尿器科の取り組みを知った。看護師が悩みを聞き、治療方法などを教えてくれる相談会「Swanの会」を月1回、無料で催す。予約をとって足を運んだ。
骨盤底筋ゆるむ
「骨盤臓器脱は骨盤内の臓器を支える筋肉『骨盤底筋』がゆるむことで起きる疾患です」
相談会では、看護師の馬場智子さんがスライドを用いて解説してくれた。膣に向かって落ちてくる臓器には、子宮やぼうこうなどがある。記者の場合、落ちてきた直腸に押され、膣壁の一部が外に出る「直腸瘤(りゅう)」の可能性があることが分かった。
骨盤底筋がゆるむ原因は主に、出産経験▽ぜんそくや慢性のせき▽便秘傾向▽体重増加▽重い荷物を持つ▽コルセットなどきつい下着の着用-などがあるという。
症状の悪化を防ぐには骨盤底筋自体を鍛えるトレーニングを続けるのが有効だ。同院では看護師がマンツーマンで効果的な方法を指導する有料の「骨盤底筋トレーニング外来」も設ける。
また、日ごろから骨盤底筋に負荷をかけないことも重要だという。肥満は大敵で、診察では生活指導の一つとして運動を勧められることがあるが、注意したいのがその方法だ。
「腹筋運動やスクワットは腹圧がかかり骨盤底筋に負担がかかる。それだけをやるのは逆効果になることを知っておいてほしい」と馬場さんは話す。
症状が進んだら、臓器の下垂を防ぐ専用の下着や、膣内に装着するペッサリーと呼ばれる器具の使用、手術という手段があることも教わった。
「治療には複数の選択肢がある。自分がどうしたいのかを決断するために、相談会で知識を身につけ、疑問を解消してほしい」と呼びかけた。
かかりつけでも
相談会はグループ形式で行う。毎回、5人程度の参加者が集う。骨盤臓器脱だけでなく、尿漏れなど排尿トラブルの相談も受け付けている。
「出産後に症状が出たという30代から80代後半まで幅広い年齢の女性が参加している。他の人の話を一緒に聞くことで、悩んでいるのは自分だけではないことを知り、精神的に楽になったという人も少なくない」と馬場さんはいう。
同院の女性泌尿器科の科長、下稲葉美佐医師によると、日本では女性泌尿器科の存在自体がまだ十分に知られておらず、デリケートゾーンに違和感があり骨盤臓器脱が疑われる症状があっても、診察にたどり着けない潜在的な患者も多いという。
「近くに女性泌尿器科がなければ、まずは子宮がん検診などの機会に、かかりつけの婦人科で相談してみてほしい」と下稲葉さんは話している。(篠原那美)