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人間関係に悩む人へ 他者との間に「わたしはわたし」と境界線を引こう

産経ニュース 2025年2月5日 9時10分

スクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんは、人との距離感に悩む若者に向けて、他者との間に「境界線(バウンダリー)」を引く大切さを説く。著書『わたしはわたし。あなたじゃない。』(リトルモア)では、友人間の同調圧力があっても、自分がどうしたいか「本当の気持ち」を確認する方法を解説している。

普段あまり聞かない「バウンダリー」という言葉。鴻巣さんは「ひと言でいうと『わたしはわたし』『あなたはあなた』という心の境界線のことだ」と話す。

日常生活で人間関係がしんどいと感じるのは「自分と他者との境界線が分からなくなっている状態のとき」と説く。著書では「友だち」「家族」「学校」「恋愛関係」「SNS」の項目ごとに困りごとを取り上げ、バウンダリーを用いた対処法を考えていく。

同調圧力への対処

例えば同調圧力について。男子生徒どうしで「友達なんだから、好きな女の子を教えて」と要求された場面を例示する。〝恋バナ〟は思春期に話題になりやすい。本心は明かさず、心の境界線を踏み越えさせずに、ノリだけ合わせる。それも「バウンダリーを守る対処法」と肯定しながら、読者にこう問いかける。「もし会話の輪に同性を好きだと感じている人がいたら、『恋愛対象は異性』と決めつけたまま進む会話は、セクシュアリティー(自身の性の在り方)が否定され、心が苦しくなる話題ではないか」と。

鴻巣さんは、「『友達だからなんでも話すべきだ』という発想は、話したくないと思っている相手のバウンダリーを踏み越える行為」と説明する。友達グループに所属して得られるメリットよりも、同調圧力のしんどさが上回るなら、「『言いたくない。その気持ちを大切にしてほしい』と勇気をもって打ち明けてみてもいいのでは」と提案する。

鴻巣さんがこれまでスクールソーシャルワーカーとして受けた相談をひもとくと、その多くがバウンダリーの問題に行きついた。

特に、保護者や学校の先生に伝えたいことがあるという。大人が子供のバウンダリーを侵してしまう言動についてだ。

不登校が続く子供と面談したときのこと。「あなたは何が心配なの?」と尋ねると、「勉強が遅れる」「友達が減る」「進路に影響する」といった答えが返ってきた。

「それは本当はだれの心配事だろう?」。鴻巣さんが、さらに質問を重ねると、本人の悩みというよりは、親や先生が心配することだと分かった。周りの大人の期待に影響され、子供自身の境界線があいまいになってしまう例だ。

NOと言う大切さ

「特に進路選択に悩む中高生の時期は、大人の期待に応えようとする子が多い。意向をくみ取り過ぎるくせがつくと、子供はバウンダリーをうまく引くことができずに、本当にしたいことが何かを見失ったり、嫌なことにノー(NO)という力を奪われたりしてしまう」と懸念する。

逆に、バウンダリーを意識しながら自分の気持ちを見つめ、嫌なことに「NO」と言う大切さを理解できれば、相手からの「NO」にも必要以上に傷つかず、他者を尊重して受け入れる心の下地ができる。これは恋愛における性的同意のベースにもなる考え方だ。

「バウンダリーは子供たちをトラブルの加害者にも被害者にもさせない〝人生のお守り〟。今の時代に必要なスキルではないでしょうか」(篠原那美)

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