心臓病などの症状が重く、専門的な治療を受けなければ命に関わる子供たちがいる。そんな患者の治療を続けながら専門医のいる病院に迅速に搬送する医療用ジェット「ドクタージェット」の試験運航を今年4月から、NPO法人が始めた。これまでに大人も含めて計8人を搬送し、さらに多くの子供を救うために、国の事業化を求めている。
肺静脈閉塞の疑いある幼児を搬送
11月12日、大阪(伊丹)空港にドクタージェットが初めて着陸した。搬送されたのは、肺静脈閉塞(へいそく)の疑いがある6歳未満の男児。山口県内の病院から搬送され、兵庫県立こども病院の医師や看護師が同乗して治療を行った。
男児の親も同乗し、山口宇部空港から1時間ほどで大阪空港に到着。すぐに専門的な治療を受けられる病院にドクターカーで移動した。ドクタージェットの試験運航はこれが8例目となった。
ドクタージェットを運航しているのは、NPO法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(JCCN)。理事長を務めるのは、心臓移植手術の経験が豊富な千里金蘭大学(大阪府吹田市)の福嶌教偉(のりひで)学長。令和4年に設立され、クラウドファンディング(CF)で資金を集めるなどして準備を続け、今年4月から試験運航を続けている。
ドクターヘリと比較して利点も
福嶌理事長によると、重症の子供が救急で高度な専門医療を受けられる小児集中治療室(PICU)のある小児救命救急センターの数は限られ、都市部に多い。
「どこで生まれてもどこに住んでいても、平等に子供たちは助からないといけない」。それが福嶌理事長の信念だ。都道府県が主体となるドクターヘリも過疎地から都市部への患者の搬送などを担うが、福嶌理事長によると、ヘリは行動範囲が最大100キロ程度であるのに対し、ジェットでは都道府県境をまたぐ長距離搬送が可能。航続距離は最大約2千キロという。
さらに、ジェットはヘリでは難しかった搬送中にも高度な集中治療を継続でき、重い医療機器が必要な患者の搬送も可能だ。転院目的の搬送や、夜間や悪天候時の飛行もできるという。
継続の課題は資金面
JCCNは4月から、試験運航という形でドクタージェットの運航を続けてきた。搬送を依頼したい場合、搬送元の病院の医師が、搬送の可否などを判断するメディカルディレクター(MD)を担う病院に電話で連絡。搬送元の登録は必要なく、医師であれば誰でも連絡できるという。
1例目は、0歳の男児を小松空港(石川)から愛知県営名古屋空港へ搬送。これまで大人の患者も含めて8人を搬送し、救命を続けてきた。
課題となっているのが資金不足だ。搬送にかかる金額は、1回あたり300~400万円で、JCCNは国の事業化を求めて活動している。
厚生労働省によると、僻地(へきち)に住む患者のジェット機輸送については国が事業を支援しており、僻地以外の輸送についても令和7年度の概算要求に盛り込んでいる。ただ、僻地以外での輸送について担当者は「治療しうる症例の詳細な特徴や、対象地域と必要な設備などを把握する必要がある」とし、「費用対効果も考慮しつつ対応を考えていく」と慎重な姿勢を示す。
福嶌理事長は「患者が住む地域で受けられない高度専門医療が別の地域の病院で受けられるなら、ドクタージェットで運びたい」と意気込む。その上で、「費用はぜひ国で捻出してほしいが、それが実現するまで、寄付を募ってこの事業を継続したい」と訴えた。寄付の受け付けはウェブサイト(https://n-fukushima.jimdofree.com/)。(前原彩希)