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脳を知る 軽度認知障害 運転免許の卒業式で笑顔

産経ニュース 2025年1月10日 6時0分

「車でひとり出かけて、いつもいくところでも迷ってしまうんです」。70代の男性が、長男さん夫婦に連れられ私の物忘れ外来を受診されました。1年半ほど前から物忘れがあり、半年くらい前からは、昨日に言ったことも忘れることがあるとのことでした。本人には物忘れの自覚はなく、「自分は病気じゃないから、病院へ行かない」となかなか病院へ受診しようとしなかったのですが、今回なじみのある市民病院だったら行くよと言ってくれたため連れてきてくれました。

症状としては、日にちや季節がわかりにくい、同じことを何度も言う、聞いたことを忘れる、夏でも厚着している、物を置いた場所を忘れて盗(と)られたんじゃないかと言う、IHや洗濯機など家電が使いにくくなる、薬を飲み忘れる、好きだった家庭菜園をしなくなったなどでした。先日は、いつもよく行く観光名所のつり橋まで車で行くのに、迷ってしまい、なかなかたどりつけなかったとのことでした。

外来で物忘れの検査をすると、30点満点中27点とほとんど正常範囲内で、脳MRIでは少し脳萎縮を認めるくらいでした。総合的に判断すると、この方は「軽度認知障害」のレベルでアルツハイマー型認知症と正常の境界でした。そのため、認知症の新薬の提案をして、その他介護保険を申請してデイサービスに行くようすすめさせていただきました。

また今回誕生日が来るので免許の更新の時期になっており、これを機会に免許を返納するよう助言させていただきました。そうすると、何回かあとの外来受診のときに、「先生、誕生日があったので、車の免許を返納したよ。子供たちがプレゼントで自転車を買ってくれたよ。警察では、車の免許の卒業式をしてくれて、卒業証書ももらったよ。タクシーも安なるみたいや」と笑顔で話してくれました。「今日外来に来る朝も自転車をうれしそうに乗ってたよ」と言ってくれた家族の方も笑顔でした。

認知症の場合、道路交通法では車の運転をしてはいけません。また軽度認知障害の場合でも警察から診断書の提出を求められて、半年に1回病院でみてもらい診断書を出さないといけません。もちろんそういった疾患がなくても高齢者では加齢にともなう、身体機能の低下や、判断能力の低下、反応の速度の低下などで車の運転が危なくなってきます。何歳で返さないといけないという決まりはないですが、運転に不安を感じるようになったときが目安になるでしょう。

運転免許を自主返納した高齢者が、マイカーに依存することなく充実した生活を続けられるように自治体や事業者などによる支援が増えています。返納時に運転経歴証明書をもらえば、バスや鉄道・タクシーなどの公共交通機関の運賃割引や、宿泊・温泉施設の割引、商品の割引など、免許返納後の生活を充実させるために各自治体でさまざまな支援や特典を受けることができます。そういったサービスは、各自治体や事業者によって異なりますので、関係機関やインターネットで確認してください。

(橋本市民病院脳神経外科部長 大饗義仁)

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