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「露営の歌」の大迫力が原点 『昭和歌謡史』 日本史研究者が執筆 〈聞きたい。〉刑部芳則さん(日本大教授)

産経ニュース 2024年9月15日 10時20分

「日本史の研究者が書いた初めての昭和歌謡史」という。レコード会社の貴重な台帳や、音楽家が残した言葉などの膨大な史料を渉猟。戦前の流行歌や戦時歌謡、戦後のヒット曲が誕生した背景を考察し、昭和史に位置づけた。

専攻は日本近現代史。「歴史研究者は大衆の歌謡曲を低く見てきたのだろう。研究テーマとして手をつけてこなかった」とみる。

中学生の時、時代劇や日本史が大好きで歴史研究者を志す。J-POPがはやり出したころ、あえて昔の歌を聴いた。「昔の歌がつまらないということは、昔の人を理解できないということ。それでは歴史のプロになれない」

まず「昭和歌謡の父」と評される作曲家、古賀政男の全曲集を買った。「『緑の地平線』『あゝそれなのに』『東京ラプソディ』は心地良かった」。

次に購入したのは軍歌のCD。NHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデル、古関裕而が作曲した「露営の歌」に「交響曲のような大迫力の歌があるんだ」と衝撃を受けた。テレビ番組「昭和歌謡大全集」の見たことのない歌手の映像にも興奮した。進路が定まった強烈な体験は本書執筆の原点になっている。

高校生になると、骨董(こっとう)市などで中古レコードを集め始めた。収集品は資料として整理した分だけでも6000枚以上。「全部で何枚あるかは分からない」と言うほど。その一部の写真を本書の随所に載せた。「買った物が恩返ししてくれてできあがった」という。

講演やメディア出演時は、ダブルの略礼服に白いちょうネクタイで登場する。正装していた戦前の歌手を意識したスタイルだ。「好きな男性歌手は東海林太郎、女性は芸者歌手の小唄勝太郎。私は戦前の価値観がかっこいいと思っている人間。中学入学のときも制服が学ランでなくブレザーで残念だった」と語る。

古賀政男生誕120年の節目での出版。「若い人、さらに次の世代の昭和歌謡のバイブルになるといいな」。今はユーチューブでも昭和の流行歌にアクセスできる。入門編として藤山一郎が歌う「青い山脈」と「夢淡き東京」を挙げる。「リズム感、高揚感がある。これらが駄目なら昭和歌謡はあきらめた方がいいですね」(斎藤浩)

おさかべ・よしのり 日本大教授。昭和52年、東京都生まれ。NHK連続テレビ小説「エール」「ブギウギ」で風俗考証を担当。

『昭和歌謡史』刑部芳則著(中公新書・1155円)

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