著者は、2016年米大統領選を前にトランプ氏勝利の可能性を指摘していたことで知られるフランスの歴史人口学者。本書では、ウクライナ戦争について多角的に分析し、「西洋のメディアが絶えず繰り返すこと」とは異なる戦争の様相を著述した。執筆した昨年7~9月時点で、同6月に始まったウクライナの反転攻勢を「失敗」とし、「ロシアが負けることはない」との見方を示している。
対ロシア制裁を巡る「西洋の孤立」と欧州経済への負の影響も指摘している。「西洋の危機の核心」は英米仏としているが、日本を広義の西洋に含めており、言及も多い。
11月8日に発売。丸善丸の内本店の週間ベストセラー(ノンフィクション部門)では同27日までの3週連続首位に。文芸春秋によると、約1カ月で4刷計3万9000部。好調な売れ行きの要因として、同社では「社会や世界の動きを人口、教育、家族、宗教という深層から捉えている」「国際社会イコール米国ではないことを教えてくれる」なども挙げる。
本書はドイツ語や中国語など21カ国で翻訳刊行。だが、英語への翻訳は決まっていない。その理由について、著者は「受け入れられない真実をこの本が描いている」などと話しているそうだ。 (寺田理恵)
『西洋の敗北』エマニュエル・トッド著、大野舞訳(文芸春秋・2860円)